ガザ撤退の後に続くもの

2009.1.20



 イスラエル軍はガザ地区から多くの部隊を撤退させています。本当にすべての部隊が撤退するのかどうかは不明ですが、これはイスラエルにとっては悪手です。

 globalsecurity.orgの記事は「午後2時から、イスラエルはガザ地区でのテロリスト組織に対する活動を停止しますが、ガザ地区の中とその周辺に配備され続けるでしょう。」と書いており、一部の部隊がガザ地区に残留するとしています。イスラエル軍のウェブサイトには、これについての明確な情報はありませんでした。

 国連をはじめとする国際組織が、戦争犯罪の調査を開始しました。これは当然です。イスラエルの攻撃は明らかに過剰でした。ウェブスター・フォーミュラのコンセプトは守られず、ガザは無防守都市ではなく、防守都市とみなされ、攻撃対象とされました。攻撃対象は、地上軍の攻撃に対して防守を企てる「防守都市」と、それ以外の「無防守都市」に分けられます。無防守都市に対する攻撃は禁止されますが、防守都市に対する攻撃は軍事・非軍事の区別なく攻撃できます。それでも、宗教・学術のための施設・傷病者の収容所は、軍事目的に利用されない限り、攻撃してはなりません。ガザ地区が武装集団のハマスとガザ住民が混在する場所であることは周知の事実で、防守と無防守の区別は、判断する人が置かれる立場によって異なります。イスラエルは防守都市とみなし、住民への警告は行ったものの、軍事行動を最優先したために、たった23日間の戦闘で死者が1,132人、負傷者が5,100人も出たのです。死者の半数は民間人といわれています。この数字は復興活動が進むにつれて遺体が発見されることにより、さらに増えるものと考えられます。

 イスラエル軍の記者会見では何度もガザ住民への人道支援を強調する場面が見られましたが、虚しい響きとしか聞こえませんでした。イスラエル軍はほとんど意味のないビラを配りました。また、19日付けのイスラエル軍公式サイトの記事では、イスラエル軍は300,000人のガザ住民に電話をかけ、近くにいるハマスを同軍が攻撃する前に避難するように要請したといいます。しかし、避難経路を明確に示すようなことはしませんでした。これはジュネーブ条約の追加議定書で定められていることであり、イスラエルはこれに参加していないのです。追加議定書の参加国からすれば、ガザ侵攻で民間人に多大な損害が出たのは、イスラエルが追加議定書に参加していないことに理由があり、追加議定書の正しさが証明されたことになります。

 実際、ガザ地区は防守都市、無防守都市の概念から逸脱した存在でした。国際法が想定した世界から現状は乖離している点に注目し、今後は国際法を、より現状に適合させ、より平和を達成できる方向へ変更する必要があります。

 ここで再注目されるべきことの一つにハーグ空戦規則案があります。この規則案は、空襲は軍事目標に対して行われる時だけ有効とし、民間人の威嚇や殺傷を目的としてはならないとし、地上軍から遠い場所での都市、町村、建物の爆撃を禁止しました。これは発効しなかったものの、現在でも権威ある法原則とされています。こうした未成立の法を再評価して、実現する必要もあるでしょう。

 ハマスは当然のように勝利宣言を行いました。戦士の被害が600人としても、20,000人いるハマスにとっては軽微な損害です。当面は今回の戦闘で受けた被害の回復や世界からの反響を整理しますが、戦闘の継続に利があると考えれば、活動を再開するでしょう。破壊された密輸トンネルを修繕し、新しいトンネルを掘り始めることでしょう。トンネルからは、また武器が運び込まれます。これは同じことの繰り返しなのではありません。ハマスにとっては前進なのです。

 こういう状況を目の当たりにして、国際社会がすべきなのは1つしかありません。イスラエルとハマスの両方が、お互いに対話による問題の解決を目指することを後押しするべきなのです。イスラエルに参加していない国際法に参加するよう求める声も高まるでしょう。残念なことに、日本の国会にそうした声は少なく、国民からの要請も足りません。もっと戦争と平和に関心を持つ人が増える必要があります。


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