アメリカとパキスタンの対立が激化

2008.9.12



 今日はアメリカのメディアは同時多発テロ関係の記事ばかりです。こういう時、軍事分析に向いた記事はあまり載りません。思い出話をしても、これからの戦争を検討することはできないからです。

 まず、2機のロシア製戦略爆撃機Tu-160がベネズエラに着陸したという記事が目を惹きます(記事はこちら)。ロシアの軍事アナリストによると、ロシアの戦略爆撃機が西半球に着陸したのは、冷戦が終わってから初めてです。これはおそらく、グルジア紛争にチャベス大統領が支持を表明したことへのロシアのお礼で、後を引くことはない、と私は考えます。ロシアはすでに矛先を一端収めています。それでも、ベネズエラにお礼の態度を示す必要がありますから、それを実行したのでしょう。要は、行き違いみたいなものです。

 越境攻撃に対して、パキスタンとアメリカの対立がさらに激化しています(記事はこちら)。

 アシュファク・パルベズ・ケイヤン大将(Gen. Ashfaq Parvez Kayan)は、次のように述べました。この発言について、アシフ・アリ・ザルダリ首相(Prime Minister YousafIRaza Gilani)が支持を表明しました。

  • 国の主権と領土保全は、いかなる犠牲を払っても守られるであろうし、外国の軍隊はパキスタンの中で作戦を遂行することは許されない。
  • 長期的な利益を無視して短期的な利益を選ぶのは正道ではない。
  • 成功を収めるために、連合は一方的な手法を採るのではなく、戦略的な辛抱強さを示し、お互いが望む方法で助ける必要がある。
  • 連合軍の交戦規定はしっかりと定義されており、パキスタンだけがその国境線の内側で武装勢力に対する行動を取ることを見越している。
  • パキスタンにその領域の中で作戦行動を行うことを認める、合意や了解には少しの疑問の余地もない。

 想像以上に厳しい発言が飛び出しました。米軍にとって、どんどん厳しい状況になっています。パキスタン軍のトップから想像以上に厳しい批判が出たのです。現地人からも敵視され、パキスタン軍からも敵視され、米軍はいよいよ孤立した作戦活動を強いられることになります。これが同時多発テロ直後だったら話は違ったかもと思いますが、それは仮定の話に過ぎません。

 ところで、ランド研究所のセス・ジョーンズ研究員が、対テロ戦の定義を見直すべきだという報告書を発表したと産経新聞が報じました。1968年以降に世界で活動した648のテロ組織について、どのようにテロ活動が終息したかを分析したものです。

政治解決路線への転換
43%
警察や諜報当局による取り締まり
40%
「目的を達成した」としてテロを止めた
10%
軍事力による組織の壊滅
7%

 1番目の典型例はパレスチナ解放機構(PLO)ですね。最初はテロ組織だったけど、いまはパレスチナ自治政府となっています。アルカイダがこの道を辿る可能性も十分にあります。彼らはイスラム主義の国を作りたがっています。それは政治解決とは言えませんが、多分、彼らの目標です。ジョーンズ氏はそれは認められないので、その次の警察などによる取り締まりを主張しているのでしょう。軍事力による組織の壊滅はおそらくテロ組織が小規模な場合だけに起こる結末です。米軍の戦いが報われるかどうかは分からないという私の主張は、この研究でも説明できます。もっとも、記事にはヘリテージ財団のカラファノ研究員の反対意見も載っています。

 それから、テロ戦争の定義の問題は、2003年にジェフリー・レコード教授の論文「BOUNDING THE GLOBAL WAR ON TERRORISM」によっても指摘されており、いま始まった論争ではありません。日本の報道には、事実の積み重ねがなさ過ぎるのが欠点です。


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