グルジア紛争は頭脳戦の段階へ

2008.8.29



 military.comがグルジア紛争のその後を伝えています。当事者双方が互いに相手を非難する、武力紛争でお馴染みの展開が繰り返されています。しかし、当面、新しい武力行使は行われそうにありません。

 記事の大部分は、これまでの報道内容の繰り返しですが、目新しい部分もあります。ロシアの農業大臣が、アメリカの鶏肉と豚肉の輸入割当を何十万トンも減らすかも知れないと、脅しをかけています。国連は戦争難民を16万人と見積もっています。この数は当初の見積もりから大幅に上方修正されています。

 目を惹くのは、ロシアを除いたサミット参加7ヶ国が、ロシアをG-8のメンバーから外すかどうかを検討していると、2週間前に政府高官が述べたという記述です。G-7とは、アメリカ、イギリス、フランス、カナダ、ドイツ、日本、イタリアです。しかし、福田総理がそう言ったと、聞いた記憶がありません。憶えているのは、高村外務大臣がロシアを非難した声明だけです。

 グルジアがこの戦争で被った損害は10億ドルで、グルジアの経済を害することはないと、グルジア政府は主張します。アメリカはミサイル駆逐艦マクファール(USS McFaul)を、当面、国会に配置し続けることにしました。米海軍は、ロシア軍がいるポチ港(Poti)ではなく、その南にあるバトゥーミ港(Batumi)に沿岸警備隊の船を乗り入れました。グルジア当局者によると、ポチはロシア海軍により水雷で封鎖されています。ロシアも対抗して、黒海艦隊の旗艦・ミサイル巡洋艦モスクワ(Moskva) と、ミサイル艇2隻はスフミ(Sukhumi、ソフミ(Sokhumi)とも表記される) に平和維持活動を名目にして、乗り入れました。アナトリー・ノゴビツィン参謀次長は、すでにNATOは国際協定が認めている黒海に配置できる艦艇数を使い果たしたとして、これ以上の配置を警告しました。この国際協定が何かは不明です。

 ロシア海軍が旗艦を出すなど、その力の入れようが分かります。黒海艦隊は、ウクライナの独立後、艦隊をウクライナとロシアとで分割し、ロシアの勢力は減少しています。ロシアが主力艦をもぎ取ったとはいえ、いきなり旗艦を出すくらいしか手がないのです。今後、別の艦隊から黒海艦隊へ補充を行うかどうかが検討されるかも知れません。その場合、ボスポラス海峡を通る必要がありますが、先日、米艦船が通過した際、トルコの承認を求めたように、ロシアもトルコの承認を得る必要があります。通常、国際法は海峡の自由航行を認めていますが、ボスポラス海峡に関してトルコは通過通航権を認めないとしています。もし、トルコが西側艦船の通行は認め、ロシア艦船の通行を認めないことになれば、ロシアにとって不利に働きます。そのせいか、ロシアは今のところ、トルコは非難していません。

 新冷戦(new Cold War)という言葉が登場していますが、冷戦の時に見られたような、リデル・ハート式の間接的アプローチが使われるかどうかは、今のところ明らかではありません。リデル・ハート卿は孫子の兵法を応用し、直接対決よりも間接的アプローチで敵の戦力を減少させる戦略を提案しました。冷戦時にはそれが使われすぎて、世界の至るところで代理戦争が行われました。新冷戦で、こうした代理戦争が起こるかについて、私はやや懐疑的です。対テロ戦という別の戦争があるため、米ロ共に自制しなければいけないからです。

 今後は、双方が頭脳を駆使した戦いを繰りひろげるでしょう。ロシア側が戦略に長けているのは説明を要しません。問題はアメリカです。硬直したブッシュ政権に対した動きは期待できません。やはり、EUがどこまでやるかが問題ですね。


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