NATOとOSCEがグルジア紛争に積極介入

2008.8.21



 space-war.comによると、NATOの緊急会合はロシアとの関係を、ロシア軍がグルジア共和国から退却するという約束を果たすまで、通常の関係を断つことを決定しました。

 緊急会合は、ロシアがかつてソ連邦を構成していた共和国で、民間人のインフラを故意に破壊したことを非難しました。NATOとロシアの関係は放棄しないけども、約束を果たさない限りは、いかなるレベルにおいても招集されることはありません。会合では、「NATO=グルジア委員会」の設立も発表されました。また、グルジアで15万人の難民が緊急的な人道支援を受ける必要に迫られており、15人の民間人と専門家を、損害の程度を査定するために派遣される見込みです。

 一方、欧州安保協力機構(Organization for Security and Cooperation in Europe: OSCE)は、20人の停戦監視委員を派遣することを決定しました。さらに、OSCEは100人程度の追加の監視員を派遣する見込みです。(OSCEのウェブサイトの記事はこちら

 ロシアは国際秩序のルールを利用して、グルジアがNATOに参加することを防止しようとしました。これは、やはりパイプラインの利権を維持するためです。もちろん、グルジアがNATOに参加したからといって、ロシアのパイプラインの利権が侵害されるわけではありません。しかし、その状態が長年続けば、グルジアの西欧化が進み、いずれは自分の手から離れていくことを心配しているのです。

 ヨーロッパ諸国は、こうしたロシアの意図を直ちに理解し、それを挫こうとしています。ロシアは南オセチア以外にいるロシア軍を南オセチアに退却させ、停戦監視を続けようとしています。こうすることで、国連の名の下に南オセチアの分離主義者を支援し続け、それによってグルジアを自分の側に置こうとしているのです。だから、ロシアにとって、ロシア軍が平和維持軍を担当する必要があるわけです。それを認めてしまっては意味がないと、ヨーロッパ諸国は考えます。そこで、「民間人のインフラを故意に破壊した」と、国際法違反の事実を突きつけ、ロシア軍に平和維持軍を務める資格がないことを明確にしました。NATOとロシアの協力関係も絶ちます。「NATO=グルジア委員会」は、ロシアにとっては痛い話で、侵攻の成果を台無しにします。グルジアの損害査定のために派遣される人たちは、ロシア軍によって行われた破壊をデータ化し、問題点を明らかにします。

 ロシアはOSCEの56ヶ国ある参加国のひとつに過ぎません。停戦監視団の派遣には反対できません。NATO軍を停戦監視団としてグルジアに派遣するといえば、ロシアは激しく抵抗するでしょう。そこで、OSCEとして専門家を派遣し、一方でNATOのロシアへの協力を断って圧力を加えるのです。

 しかし、グルジアのNATO参加は促進します。気になるのは、このことが紛争の再発を招かないかということです。再びロシア軍が侵攻してグルジア全体を占領し、かつてチェコで起きたような圧政が復活することを予見できます。それでも、当時と現代とでは状況が若干違います。ロシア軍の侵攻は、民族浄化の防止という大義名分のために行われました。真意は違っても、それと著しく異なる行動はできません。また侵攻するためには、グルジア側の著しい停戦違反がなければ無理です。そのためには、今度はもっと手の込んだ謀略を使うしかありません。しかし、それを防止するのがOSCEの停戦監視団です。この状況で再び侵攻を行えば、今度はもっと大きな戦争になります。それをロシアが望むのは疑問です。

 現段階では情勢は流動的ですが、グルジアのNATO参加を拒むために行ったロシアの侵攻は、その目的を果たし得ない可能性があります。さらなる侵攻はNATO軍の全面的な介入を招く恐れがあります。イラクから米軍が撤退し、アフガニスタンへ移動すれば、NATO軍が引き揚げて、グルジア支援に回す余裕が出やすくなります。多数の地上軍と黒海艦隊の損害を覚悟で、グルジアを維持する必要があるかという問題を、ロシアは考える必要があります。

 この辺の戦争処理の手法を、日本はもっと学ぶ必要がありますね。日本は海に囲まれており、隣国と陸地でつながっている国々に比べると、紛争処理の実績が少なく、実力が乏しい点は認識しなければなりません。


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