ロシアの南オセチア介入は資源戦争か?

2008.8.11



 オリンピック気分になりかけた時、グルジア共和国の南オセチア自治州(South Ossetia)の分離独立紛争が急速に激化し、本格的な戦闘が行われました。military.comに関連記事が2つ載っています(記事1記事2)。戦況については、記事を読んで頂くとして、それ以外のことについて考えます。

 誰もがオリンピックと開戦の関係を疑うでしょう。私もそう考えました。実際、グルジア共和国のミカエル・サアカシビリ大統領(President Mikhail Saakashvili)は、CNNのインタビューに「ほとんどの政策決定者が休暇に行ってしまった。小国を攻撃するには絶好の機会である」と述べています。これは、プーチン大統領やブッシュ大統領など、多くの国の指導者が北京に集まっていたことを意味していると、記事は書いています。高速回線で簡単にテレビ会議ができ、指導者がいる場所が政治に影響を与えなくなったような時代に、こんな陰謀を巡らす指導者がいるとは驚きです。第一、北京訪問が「休暇」ではなく、第2の外交の場であることくらい、分かっていなくてはなりません。それも、ロシア軍の素早い対応について行けなかったようです。唯一の救いは、今回の攻撃が失敗だったことを悟り、すぐに全面的に撤退したことです。そうしないと、ロシア軍が南オセチアを保護する必要上と称して、戦争を拡大しかねません。

 グルジア共和国にはパイプラインが横断しており、それをロシアに取られては大きな損失なのです。アゼルバイジャン(Azerbaijan)からの石油ラインとトルクメニスタン(Turkmenistan)からのガスラインは、グルジア共和国を横断してトルコにつながっています。このパイプラインのひとつには伊藤忠商事が一部出資しています。同社のニュースリリースを読むと、そのパイプラインは、アゼルバイジャン共和国バクー(Baku)を起点とし、グルジア共和国トビリシ(Tbilisi)を経由して、地中海沿岸のトルコ共和国ジェイハンに至る総延長約1,768km、輸送能力日量100万バレルの原油輸送能力を持っていることが分かります。ジェイハン出荷基地には、100万バレルの貯油能力を持つタンクが7基あり、全長2kmの桟橋では2隻の30万トン級タンカーが同時に着桟可能です。

 南オセチアは、パイプラインがロシア軍に押さえられると困ります。ロシアとて、居座り続けるのは国際世論が許さないことは知っていますが、占領中の交渉次第で、何らかの利益を得ることができるかも知れません。こうしていつかは、親ロシア政権をグルジア共和国内に擁立できれば、合法的に亜パイプラインの権利を手に入れられると踏んでいるのかも知れません。だから、グルジアは面倒なことにならない内に手をひいたのです。彼らが「ロシアの陰謀」だと言うのには、それなりの理由があるわけです。気の毒なのは動員されたグルジア軍兵士や国民ということになります。もっとも、今回の事件で伊藤忠商事の方々はさぞ慌てたことでしょう。

 グルジア共和国はイラクに2,000人(連合軍中で3番目の兵数)の兵士を派遣しています。だから、アメリカはグルジア共和国を支持しています。アメリカはグルジア兵を訓練するために陸軍と海兵隊1,000人以上をグルジア共和国に派遣しています。パイプラインと対テロ戦争という2点で、アメリカはグルジアの味方につくことになります。ロシアはあれこれと理由をつけて、できるだけ長く南オセチアに留まろうします。戦闘はまもなく修了せざるを得ません。グルジア共和国の部隊が完全に撤退し、それを確認するのに十分な期間を過ぎても攻撃を続けると、侵略行為とみなされれるからです。これからは、南オセチアを巡って、嫌らしい外交戦が展開されることになります。


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