小銃部品不正輸出事件:防衛大臣が報道を否定?

2008.8.1
同日20:30 修正



 小銃部品不法輸出事件について、まったく矛盾する情報が出てきました。the-news-tribune.comによると、飯柴智亮大尉が照準器を送ったのは、自衛隊だけではなく、仕事の関係者にも送っているということです。一方、石破茂防衛大臣は、独占的販売代理権を付与されている国内企業が輸入した可能性を示唆し、まったく異なる見解を述べています。

 まず、前者の記事から紹介します。

 記事によると、大尉が暗視装置(照準器)を送ったのは「日本国内の個人と仕事上の関係者(individuals and business contacts in Japan)」です。これらが誰なのかは明らかにされていません。

 また、上部レシーバーについて、この記事は「ペイントボールに似た模擬戦闘ゲームの関係者が使用するエアソフト用の兵器用に改造する火器の部品と多種類のスコープ照準器」だったと書いています。(下記参照)

He also shipped firearm parts modified for Airsoft weaponry used by participants in a simulated-combat game similar to paintball and various scopes.

 「ペイントボール」は、アメリカで流行った塗料が入ったボール弾を撃ち合うゲームのことです。これが日本で「サバイバルゲーム」となって流行したわけですが、「エアソフト」というのは、そのアメリカでの名称です。アメリカ生まれの「ペイントボール」が日本で「サバイバルゲーム」となり、エアソフト」としてアメリカに逆輸入した形です。これを読む限りは、本物の小銃に取りつけることで、エアソフト用銃に変更するための部品のように思われます。アメリカでも、日本のエアソフトガンによく似たものは製造されていますが、それは銃全体として販売されており、上部レシーバーだけの製品は、今のところ見つけられていません。

 この記事は、大尉が故意に税関用紙に品物を正しく記入しなかったことを認めたと書いています。それは、これらの品物を輸出するには輸出許可がいるためで、それを手に入れるには時間がかかるのを避けたかったのだと推測できます。

 大尉はアメリカの税関を通過すれば問題はないと考えていたのですが、同じ検査が東京で行われることを知らず、事実、東京の税関が問題点を発見して、事件が発覚したのです。大尉の行動は、私には理解し得ることです。アメリカの税関は「銃器部品」と書いて輸出しようとすると、却下して、品物を送り返してくることがあると聞きます。大尉は、そういうトラブルを避けたかったのでしょう。もちろん、これは違法行為です。

 判決公判は11月7日に開かれます。前回、私は大尉が検察官に対して罪を認めただけだと勘違いし、審理公判が開かれるように書きました。記事を読み直したら、法廷で認めたと書かれていることに気がついたので、次は判決公判となります。前の記事も書き直しました。大尉が経緯をすべて説明したことにより司法取引が成立しており、検察官は判事に執行猶予3年を宣告するよう要請すると考えられています。大尉の弁護士ロバート・リーン(Robert Leen)は、連邦裁判所の判決の後で、陸軍による懲戒処分が行われる可能性があると見ています。

 防衛庁の正式な発表は未だにありませんが、7月29日に行われた石破茂大臣の記者会見では、まるで違う内容が披露されました。防衛省のウェブサイトに掲載された会見の内容を以下にそのまま転載します。

(転載開始)

Q:アメリカの方で米陸軍大尉が「陸上自衛隊の頼みで照準器を不正に輸出した」という主張をしているようなのですが、これの事実関係を今分かっている範囲で教えて下さい。

A:そういうような報道があったことは承知をいたしております。問題となっております小銃用の照準具でございますが、これは一昨年、平成18年12月に陸自習志野駐屯地第316会計隊と株式会社「理経」との契約により、小銃用照準具50個を調達し、また平成19年11月に陸自富士学校と株式会社「理経」との契約により、小銃用照準具10個の調達を行ったということが事実関係としてございます。この調達を行いました小銃用の照準具は、合衆国の国内法によりまして、アメリカの国外に輸出致します場合には米国政府の許可が必要であるということでございます。このことにつきましては、契約締結段階において陸上自衛隊は承知をしておったものでございまして、契約の相手方として照準具の製造元である米国企業「EOTech(イーオーテック)社」と申しますが、この企業から独占的販売代理権を付与されている国内企業、先程来申し上げております株式会社「理経」を選定したということでございます。したがいまして、この照準具の納品に当たりましては、合衆国政府の輸出許可は適正に取得をされているというふうに推測をいたしておるところでございます。この目的は何かといいますと、教育訓練用として購入をしたというものでございます。事実関係としてそういうものだというふうに把握をしております。

Q:そうしますと、米国で訴追された飯柴大尉とかですね、何らかの形でこれの以前も含めて関わっていたということはないという認識なのですか。

A:現状でこの照準具についてどうなのかということについて調べましたところ、今申し上げたような事実関係が確認をされているということでございます。飯柴氏がそれ以前にそういうことがあったかどうかということについて現在、私どもとして情報は持っておりません。ただ、彼が訴追をされたということ、そして合衆国において適正に今後諸手続がなされる、諸判断がなされるというふうに承知はいたしております。また、彼が色々なことを申し述べているということも承知をいたしておりまして、私どもの中でも可能な範囲で事実の確認は行いたいと思っています。

Q:本人は、「陸上自衛官から頼まれて輸入をした」という話を主張しているようなのですが、現段階では、調査ではそういう事実関係は把握されていないという理解でよろしいでしょうか。

A:概ねそういうご理解でよろしいかと思います。23日の朝日新聞の報道がございましたので、これを受けまして合衆国に駐在しております陸自連絡官が飯柴大尉に対しましてコンタクトを取り、事件の事実関係について聴取をいたしました。現時点で確たることを申し上げることは困難でございますが、そのような方法によりまして、私どもとしても飯柴氏から事情を聞いたということもございますし、そしてまたそれを受けて、部内においてどのようなことがあったか、飯柴氏と接触し何らかの依頼等があったかなかったかということについては調査をしているところでございます。

Q:本人から少なくとも自衛官の関与を示すようなことは、聞き取りの中では話は出なかったということでしょうか。

A:現在、引き続いて調査を行っているものでございますので、「彼がああ言った、こう言った」ということについて、彼が申し述べたことのみを一つの論拠というか、これから色々と裏付けの調査もしていかねばならないことでございますので、「彼がこう言っている、ああ言っている」ということを、一方的に私が申し述べるということは、あまり適切ではないと思います。

(転載終わり)

 ここまで主張が食い違うと、笑うしかありません。

 「理経」が国内総代理店の資格を持っているのなら、「EOTech」から正規品を購入できるわけで、通販業者「オプティクスプラネット社(OpticsPlanet Inc.)」から買う必要はありません。(一部の報道では、照準器のメーカーをオプティクスプラネット社としていますが、これは飯柴大尉が購入するために利用した通販業者です)

 特殊作戦群は習志野駐屯地におり、ここの会計隊が50個の照準器を購入したのなら、飯柴大尉が言う60個とは10個のズレがあることになります。富士学校の分と合わせれば数は合いますが、大尉が照準器を仕事先の関係者にも送っている点を考慮する必要があります。数は合わなくて当然なのです。会計隊が入手した照準器とは別に、自衛官が私物として使うために飯柴大尉に依頼したのかも知れません。しかし、真相は依然として闇の中です。防衛省の調査結果を待って、また考えるしかなさそうです。

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