方面総監部の廃止について

2008.7.23



 防衛省が、陸上自衛隊の「方面総監部」制を廃止し、「陸上総隊」制へ移行する方針を示しました。このニュースを聞いた時、あまりよい印象は持てませんでした。

 かつて、運用単位を師団から旅団へ変更した時、米陸軍が運用単位を旅団ごとにしたのに倣ったのかと思いました。しかし、その頃の陸自の師団は米陸軍の旅団の規模でした。陸自隊員が「師団といっても、我々の師団は旅団規模ですから」と言うのを聞いたことを覚えています。旅団単位にしても警備区域は変わらず、単に部隊が少し縮小されただけでした。この改編には先進性を感じることができませんでした。

 今回の改編には、着上陸侵攻が中心の説明では財務省を説得しにくいので、テロやゲリラ攻撃に変更することで、予算の安定確保を図ろうという意図があるように見えます。他にも、いくつかの問題を感じます。

 ひとつは、これまでと同様に、あまり現実的とは言えない脅威を自衛隊の活動の根拠とする悪習が続くことです。かつては、ソ連が仮想的で、極東ソ連軍がいまにも日本に攻めてくるといった宣伝が繰り返されました。今後は、北朝鮮と中国が脅威の主役となり、台湾が脇役を務めるわけです。目先の脅威にばかり目を向けるのは、軍事問題を考える上で、大きな誤りの元になります。軍隊は国家を保全することが第一の使命であり、対外的に、日本が国土を守る力を持っていることを示すことが重要です。ところが、戦後日本の国防政策は、常に偽の目的を掲げてきました。自衛隊の創立自体、警察予備隊という警察部隊に見せかける嘘から始まっており、日本の独立を守るという本質的な目的は名目へとおとしめられ続けました。その後は、ソ連脅威論が叫ばれ、いまは北朝鮮脅威論が横行しています。こうした中で、自衛隊の編成と装備は、純粋に日本国土だけの防衛のためとは思えない形に成長してきました。自衛隊は防衛型と外征型の中間のような形になっています。

 テロやゲリラ攻撃による攻撃は、ほとんど考えられないくらいに可能性が低い話です。北朝鮮の特殊部隊の攻撃は、生きて帰れぬ「特攻型」にしかなり得ず、よほど北朝鮮が追いつめられた場合でなければ実行されないでしょう。自衛隊のような大部隊による対処が必要なテロ攻撃を、アルカイダが日本国内で行えるはずはありません。対テロ訓練は必要としても、基本的には国土の保全という任務を黙々と続けていくのが軍隊の役目です。何であれ対処できることが重要なのに、日本では、まるで流行のように脅威が変遷していくのが奇妙です。特に、マスコミは防衛省が言い出すと、乗り遅れるなという感じで飛びつく傾向があり、改編に対する評価を放棄しています。

 着上陸もテロ・ゲリラも可能性は著しく低い脅威です。しかし、国土保全のために、しかじかの措置が必要です。このように自衛隊が国民に正直に説明をする方向への変革が欲しいと思います。

 第2に、陸自に先に述べた先進性が感じられないという問題があります。クラスター爆弾禁止条約の件でもそうですが、政府が条約に合意することに決めた時の自衛隊の反応は「反発」でした。不発弾を多く生み、しかも榴弾砲の場合と違って、不発弾を発見しにくいというクラスター爆弾の欠点は、こうした禁止条約よりも早く、自衛隊がみずから廃棄を決断すべきでした。この他にも、あらゆる面で自衛隊を先進的な軍隊にするという努力が、自衛隊からは感じられません。それは攻撃力を強化するということだけではなく、国際法や世界の現状などに対する最新の認識に基づいて部隊を整備していくということです。対人地雷禁止条約の時のように、不利になるかも知れないようなことでも、積極的に取り組む姿勢を見せ続けて欲しいと思います。

 さらに、こうした編成にしておくと、陸自が対テロ戦争に参加する可能性がより高くなります。与党政権がイラクに陸自を簡単に派遣したように、対テロ・ゲリラ任務を前面に掲げる陸自を、政府が対テロ戦に派遣する可能性は高まると考えるべきです。

 軍事メディアは、今回の改編を大きく取り上げるでしょう。この分野では、こんなことくらいしかネタがないこともありますが、そこで語られるテロの脅威をあまり真に受けないことです。

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