アナクロすぎるアメリカの政治議論

2008.7.22



 本日は、グアムでB-52爆撃機が墜落したニュース。グアンタナモの最初の戦争犯罪者の裁判が始まったニュース。バラック・オバマがイラクを訪問中のニュースなどが目を惹きました。イラク政府が求めている米軍の撤退期限が2010年だということを明らかにしたニュースは特に重要です。

 ですが、今日は簡単にすませます。オバマ氏の記事に、マケイン氏がイラク増派にオバマ氏が反対したことを批判した件が書かれています。私も、それをテレビニュースで目にしました。軍事大国では、軍事を語る上でやっかいな問題があります。それは、常に愛国者であることを証明し続けないと、話を聞いてもらえないという問題です。選挙ともなると、ライバルがこの点で少しでも隙を見せようものなら、すかさず攻撃材料にするのが常です。しかし、こうした舌戦は、実際には戦略上、ほとんど意味のない場合が多いのです。

 イラク増派が本当に成功したという評価は、未だに確定していません。45日間の評価期間の結果、軍が報告書を提出しても、本当に正確なところは分からないでしょう。アンバル州のスンニ派がアルカイダに協力しなくなったこと。シーア派武装組織の休戦。アルカイダがアフガニスタンに戦略の主眼を移した可能性。これらがイラクのテロ事件が減った理由と考えられますが、どれがどの程度貢献したのかまでは調査しきれないでしょう。だから、増派が直接的な成果であるとは、誰にも断言できません。この時点で、マケインの主張は失当なのですが、政治的なアピールとしては有効です。彼が相手としている大衆は、必ずしもイラク戦に詳しくなく、彼の主張に耳を傾けるからです。

 アメリカの政治ディベートを見ていると、すでに完全にアナクロ状態に陥っていると感じます。テロ組織の方が時代を先取りしており、アメリカはその後を追いかけています。いや、追いかけようともしておらず、見当違いの方向をじっと見ている感じがします。第三世界にも国際化の波が押し寄せつつあるのに、冷戦期の国際社会の視点で世界を見ています。

 対テロ戦で、アメリカは戦後築きあげてきた貯金(軍事的アドバンテージ)の多くを台無しにするでしょう。ベトナム戦争で破壊された米軍は、その回復に長期間を有し、湾岸戦争でようやく真価を発揮することができました。対テロ戦で失うものを回復するのには、それと同等か、さらに長くかかると思います。

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