アルカイダの狙いはアフガンへ移動?

2008.7.21



 デビッド・ペトラエス大将(Gen. David Petraeus)がAP通信とのインタビューで、アルカイダに関する最近の評価について述べた、とmilitary.comが報じました。

 アルカイダはイラクからアフガニスタンに狙いを移した可能性がある、とペトラエス大将は述べました。アルカイダがイラクを完全に諦めるのは期待できないけども、一部の資源をアフガンに移しているかも知れません。かつては毎月80〜100人の外国人戦士がイラクに入国していたのに比べると、現在は20人程度に下がっています。また、大将は、いずれ大統領に進言する兵力レベルについては言及しませんでした。

 この発言の根拠となっている情報は確認されておらず、大将も「金無垢の情報ではない」と述べています。ただ、こうした結論を出すためには、イラクに入国する外国人戦士の数だけでは不十分です。大将が口にした数字は、過去にも報じられています。アルカイダがアフガンに軸足を移した証拠は、アフガンで殺害、逮捕された武装勢力の、外国人戦士の割合が増えたといった情報が必要です。サウジアラビアなどから来るアルカイダが、数多くアフガンに入国していることが確認される必要があるわけです。ペトラエス大将は、あるいはそういう情報を持っているけども、まだ公表するつもりはないのかも知れません。

 今後、アフガンが対テロ戦の主戦場となるのは間違いありません。特に、バラック・オバマ氏が大統領になった場合、公約どおりにイラクからは引き揚げて、アフガンに兵力を集中することになるでしょう。戦略の転換は、イラクに固執するのよりはマシですが、やはり成功は難しいでしょう。アフガンとパキスタンの国境沿いにあるトライバルエリアに武装勢力は隠れています。この地域にはパキスタン政府も権限が及びません。こういう安全地帯からアフガンへ武装勢力は出撃しており、かなり自在に移動しています。すると、かつてソ連軍が陥ったのに近い状況が生まれると考えられます。

 それでも、アメリカは考えつく限りの手段を尽くすでしょう。そして、それは成果を生みません。最終的に、やるべきことがなくなった段階で、アメリカはアルカイダと妥協する方法を検討するようになります。もちろん、対外的に恥をかかない方法でです。そうした妥協が行われるには、あと5年間程度の期間が必要でしょう。ソ連軍のアフガン侵攻でも、ベトナム戦争でも、戦争を止めるまでは十年間くらいかかっています。あるいは、十年間よりは少し短いくらいの期間になる可能性もあります。世の中のスピードが以前よりも早くなっていること、原油高による経済状況の悪化や、ベトナム戦争時の教訓が生かされる余地があるからです。

 この未来は、我々日本の未来でもあります。アメリカ追随を続ける与党政府は、アメリカに最後まで付き合おうとするでしょう。そして、一度、アメリカが態度を変えたら、節操もなく、それに追随するのです。そして、かつて自分たちが行った決断は忘れてしまい、イラク侵攻は誤りだったというのが、日本政府の公式見解となるのです。これが、ベトナム戦争で日本がとった態度です。アメリカから大きな批判さえ受けないことが大事なのであって、アメリカが負けると分かっていても意に介さないというのが、日本の考え方です。外務省の見解では、アメリカは日本と価値観を共有する国であり、だから友好関係を維持するのが大事だということになっています。しかし、実は両国の価値観や戦略はまったく異なっており、それは「同床異夢」という言葉がぴったりです。私たちは、政治家たちが対テロ戦争について口にする言葉をメモしておくべきです。そして5年後に、彼らが言う言葉と比較してみることです。

 というわけで、今後5年間の大きな流れは、この方向で進むと見てよいでしょう。この流れは、イラン問題というジョーカーによって左右されることも忘れてはなりません。

 世界は、持たざる国家が起こす戦争から、貧困が原因で生まれたテロ戦争へと、戦争の時流が移行していることに、まだ十分に気がついていません。こういう戦争を防止するためには、国連のように国家が起こす戦争に対処するための組織だけでは不十分だということを、我々は認識しなければなりません。つまり国連も、こうした状況に合わせて姿を変える必要がありますし、各国もテロ組織を生まないために、世界から貧困層を根絶する方向へと努力の方向を変える必要があるということなのです。ところが、サミットを見ても、討議の内容は旧態依然としたもので、パラダイムシフトの必要性が叫ばれることはありません。政府組織や国際機関だけでなく、NGOなどの充実、科学技術の発達も必要です。すべてが揃った時に、歴史に大きな変化があらわれるはずです。

 テロ戦争を終わらせるには、過去の植民地独立運動の歴史を調べ、そこから教訓を導き出して、実行することです。必要なのはイデオロギーではなく、科学です。科学的に考えることが重要です。

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