金剛山で韓国人観光客が撃たれる

2008.7.11
7.12 11:00追加



 北朝鮮領内の金剛山地区で韓国人観光客が海岸で撃たれて死亡するという事件が起こりました。金剛山は南北朝鮮が共同事業として、北朝鮮領内で観光開発を行っていて、韓国人でも訪問できる場所です。南北離散家族が面会する場所としても使われてきました。

 事件そのものはショッキングですが、突発的な事件であり、これが軍事問題に発展することはありません。

 詳細は不明ですが、報じられている限りでは、北朝鮮軍兵士は教えられている行動を取っただけということ。女性が軍事保護施設区域に入った理由と警告を無視して逃走した理由が不明だということは明らかです。聴力に問題があって、警告が分からなかったといった特別な理由があったのかどうかが気になります。あるいは、北朝鮮にいる家族に会いたいと思うあまりにフラフラと侵入し、兵士を見て、驚いて逃げたといった可能性も否定はできません。あらゆる可能性を先入観なく考察していく必要があります。

 この事件は韓国で大きく取り上げられました。これは、テポドン2号発射の際に、韓国社会が大して関心を払わなかったことと対照的です。この時は、世界中が韓国の平然とした態度に驚き、世界が驚いていることを知った韓国が、それに対して驚くといった、妙な光景が展開されました。

 今回も、日本人の感覚からは違和感のある反応が起きています。北朝鮮に対して強硬姿勢を取ると公言していた李明博大統領は、事件後に北朝鮮に対話を呼びかけました。本来なら、一層強硬な声明を出さなければいけないところです。

 南北の合同調査が行われ、事件が総括されないと観光事業は再開できません。現場検証と発砲した兵士への尋問は必須です。北朝鮮側が事件を隠蔽しようとするなら、韓国側は態度を硬化させるでしょう。こうしたことで双方が揉める可能性はありますが、最終的には適当なところで手打ちになることでしょう。

 北朝鮮は、観光収入が断たれるのを避けるため、出来るだけ早くに事件を解決したいところです。しかし、そのために韓国の反感を買うのは損です。いまは韓国の反応をうかがっているところです。その上で、北朝鮮は具体的な対策を打ち出してくるはずです。たとえば、金剛山事件では妥協せず、開城(ケソン)工業団地の活動をもっと強化するといったことです。反対に、遺憾の意を示す方法もあります。当然、韓国側もそうした北朝鮮の意図を知っていますから、双方が腹のさぐり合いを展開することになります。これは、あまり見たくない光景です。

(この事件について、12日午前中、朝鮮日報が分かりやすい記事を掲載しました。疑問点のいくつかが解明されています。記事はこちら。この記事の前編や、その他の関連記事も参照してください。) 

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