米軍がクラスター爆弾を放棄した?

2008.6.9



 ちょっとタイミングを外す形で、air-force-times.comがクラスター爆弾禁止条約に関する記事を載せました。この記事の中に興味深い記述があります。

 まず、米軍は2003年のイラク侵攻の初期以降、クラスター爆弾を使っておらず、再び用いる徴候はないという意見があります。これは人権団体「ヒューマン・ライト・ウォッチ(Human Rights Watch)」の上級軍事アナリスト、マーク・ガーラスコ(Marc Garlasco)の見解です。彼は、クラスター爆弾はアメリカが将来の紛争で用いる爆弾の種類ではないと述べています。しかし、アメリカ科学者連盟(the Federation of American Scientists)の副会長、イワン・オーリッチ(Ivan Oelrich)は、クラスター爆弾は依然として有用で、米軍は将来の紛争で使用するだろうと述べています。

 オーリッチ副会長によれば、米空軍は1991年の湾岸戦争の際、広範囲にクラスター爆弾を用い、その不発弾は4,000人以上の民間人を死傷させました(ヒューマン・ライト・ウォッチの調査)。米空軍は1999年のユーゴスラビア紛争でもクラスター爆弾を用い、民間人約500人の被害を出しました。2001年のアフガニスタンでも、米空軍は集落の近くに用いた事例を含めてクラスター爆弾を用い続けました。民間人に被害が出たことが批判の対象となったため、米空軍は人口密集地でクラスター爆弾を用いることを止めました。2003年の米空軍の報告書によれば、米空軍はイラク侵攻の初期に238,000個の子爆弾を持った1,206発のクラスター爆弾を使いました。また、子爆弾が不発弾になった場合、自爆したり自己無力化する機能を持ったクラスター爆弾を用いました。この結果、民間人への被害を見ることはなくなったといいます。

 しかし、この主張自体にも紛争当事国らしい事実誤認があります。イラク侵攻においても、クラスター爆弾で民間人に被害が出たという報道や報告がいくつもあります。air-force-times.comの記事では、米空軍広報官の意見も載っています。米空軍は民間人や施設への被害が出ないように注意して武器を使用しており、同じ効果を生む、より強力な爆弾を沢山用いるよりは民間人に対しては有害ではないと言うのです。これをそのまま受け取る人は、まずいないでしょう。空軍が言う、コラテラル・ダメージへの配慮など、信用するに値しません。なぜなら、彼らは空から地表を見ているのであって、地上に民間人が誰もいないのを確認してからクラスター爆弾を投下するわけではありません。地図で見て、住居が少ないのなら、そこは攻撃可能と考えるものなのです。

 米空軍はクラスター爆弾の運用方法を変えただけで、使うのを止めたわけではありません。globalsecurity.orgによると、子爆弾が正常に機能する確率は95%を上回る程度といわれています。650発の子爆弾を持つクラスター爆弾「CBU-58」の場合、38個の不発弾が出る計算です。B-52爆撃機にCBU-58やCBU-71を最大に積み込んだ場合、45発が搭載できるので約1,700発の不発弾が生じる計算です。国連地雷対策センターによると、コソボ紛争で除去された地雷と不発弾の数は、2001年3月8日までに84,046個となり、不発弾を含めた55,000個以上の爆弾が処理されました。子爆弾「BLU-97」の平均的な不発弾発生率は7.1%、「BL755」では11.8%でした。地表に40%の不発弾があると危険地帯となり、不発の子爆弾は接触するたびに13%の確率で起爆します。不発弾は一度の接触で爆発しなくても安全とは言えません。

 ガーラスコ氏は5年間も使用していない爆弾を禁止する条約に米軍が反対した理由は明確ではないけども、どんな武器であれ使用する選択肢を失うことに国防総省が抵抗したのだと考えています。

 銃器のような外部の専門家による検証ができる兵器はともかく、そうした検証ができない、比較的新しい兵器の性能は慎重に判断する必要があります。軍事専門誌を隅から隅まで読んでも、ハイテク兵器の性能は完全には分かりません。こうした情報はごく一部しか公開されない場合があり、都合が悪い数字は隠される傾向があるからです。公称で5%という不発弾の発生率が国連の調査では増えているのは、その典型です。弾道ミサイルの実験時の着弾精度(CEP)と実戦のそれも、実戦時の方が悪くなるものです。クラスター爆弾も、部外者には本当の性能を推し量りがたい兵器であり、そうした見えない部分を想像しながら考えを進める必要があるのですが、往々にしてこれは無視されがちです。

 ところで、クラスター爆弾禁止条約を推進したノルウェーは海岸線が上陸作戦に適さないフィヨルド地形だから、クラスター爆弾への依存度が低く、その廃絶を主張しやすいのだという意見を展開する人たちがいます。これは、第2次世界大戦でドイツ軍が上陸作戦(作戦名 ウェーゼル渡河演習)でノルウェーに侵攻したことを忘れています。こうした下手な理屈は議論を停滞させるものです。

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