クラスター爆弾の欠点について

2008.6.28
2008.6.29修正



 本日、J-RCOMの方に、クラスター爆弾の費用対効果についての質問が寄せられました。クラスター爆弾は「広い面を数発で制圧できる」のだから、費用対効果で有用ではないかという質問です。

 それで、クラスター爆弾について、その欠点を理解していない人がいることに気がつき、もう一度考えてみたいと思いました。

 前にも書いたことですが、クラスター爆弾は再装填に時間がかかるので使用するタイミングが難しく、ミサイルの速度が遅いので着弾までに時間がかかる欠点があります。多連装ミサイルは誘導式ではないので、発射時に設定した位置に向かうだけで、飛行中に照準位置を変更できません。再装填後に、最新の敵の位置座標をもらって発射しても、着弾するまでに敵が移動してしまうと、かなりの子爆弾が無駄になるのです。また、榴弾砲でもクラスター爆弾に似た効果は出せます。

 米軍は榴弾砲を使って多数の砲弾を同時に着弾させるテクニックも持っています。照準点を1発ずつ、少しずつずらしながら連続的に砲撃し、すべての砲弾が同時に着弾するようにするのです。これを使うと、クラスター爆弾に似た効果を出せます。

 榴弾砲は部隊単位で数発単位で砲弾を発射します。敵が対砲兵レーダーを持っている場合、自走式榴弾砲で撃っては移動を繰り返します。こうした斉射は、照準点では連続した爆発となり、敵に被害をもたらします。これに比べると、クラスター爆弾は一瞬で広域に爆発をもたらします。しかし、こうした兵器の特性から単純に高い効果をイメージするのは誤りです。

 「クラスター爆弾は拡散した敵に対して用いられる」と防衛省は説明していますが、実際にはそればかりではないと考えられます。たとえば、上陸作戦には、上陸用の海岸の他に、必ず補給拠点となる港湾が占領されます。こうした港湾を占拠した敵に対して、クラスター爆弾を用いるのは有効です。多少、民間施設に被害が出るとしても、船から降ろされた兵士や装備が集結しているのなら、まとめて殲滅するチャンスです。このことは、クラスター爆弾は、砲兵部隊、装甲部隊、空挺、ヘリボン部隊、上陸用舟艇などの広域目標を攻撃するために使うと「自衛隊装備年鑑」に記載されていることでも分かります。砲兵隊は発砲後、すぐに移動しますが、その前に辺り一帯にクラスター爆弾をばらまけば、その網の中に敵砲兵隊を確実に捉えられるのです。空挺部隊も降下した時は、細長い長方形状に拡がっていますが、その後、部隊ごとに集結して行動をはじめようとします。この時にクラスター爆弾を使うのは有効です。機甲部隊が進撃する場合、敵軍は連携が取れる程度に散開し、敵攻撃による被害を最小にしようとします。こういうところにクラスター爆弾を用いる場合、その効果は運任せです。

 私はむしろ、クラスター爆弾は、拡散した敵よりも集結した敵に対して用いた方が効果が高いと考えます。クラスター爆弾は「薄く、広く」効果を出すことはできますが、決定打としては火力が弱い問題もあります。このことは、ウォーゲーム「TacOps」で実際にクラスター爆弾を使ってみると理解できます。このゲームでは、敵の勢力が大きいと、クラスター爆弾を使っても、敵がそのまま前進し、数で押し切られてしまうことがありました。ランチャーの再装填に時間がかかるため、二回目を撃つ前に手遅れになるのです。「TacOps」では、次弾が着弾するまでには、前回の着弾から8〜9分間かかりますが、これは実際よりも数分間短いように思えます。再装填に8〜9分間、照準に1分間、ミサイルの飛行時間が数分間と見積もれば間違いないでしょう。榴弾砲はもっと短い間隔で照準点を変更しながら発射できます。現代戦はひとつの戦いが1時間くらいで終わることを考えると、この間隔でしか攻撃できないのは、使いにくさの理由になるのです。

 こうした欠点は、軍事専門誌を読んでも、なかなか分かりませんし、軍事マニアは関心すら持っていない部分です。実は、こういう視点こそ、軍事分析には大事なのです。その点、軍事マニアは兵器のデータを暗記してお腹をいっぱいにします。マニアでなくても、勘のよい人なら、クラスター爆弾が一回の斉射で制圧できる面積の土地を調べ、平均的な戦闘車両が何秒で通過できるかを計算し、再装填の時間と比較して、クラスター爆弾の評価を検討するでしょう。クラスター爆弾に依存するのは、パチンコで大当たりするのを期待するようなものです。

 防衛省はクラスター爆弾を保持する理由として、日本は海岸線が長く、奥行きのない地形が多いことをあげています。だから、海岸線で殲滅することが重要で、榴弾砲では対処できないほど拡散した敵に対してクラスター爆弾が必要だというのです。しかし、これは理屈のつけすぎというものです。先にあげたような理由で、拡散した敵に対してクラスター爆弾が効果を出しにくいのは榴弾砲と同じです。効力範囲が広すぎることも使いにくさの理由になります。榴弾砲なら敵の一部を選択して狙い撃ちにできますが、クラスター爆弾は広域をまとめて狙うしか選択肢がありません。平地にびっしりと歩兵部隊が並んでいるような状況ならばともかくも、現代のスピーディな機甲部隊の作戦では、ミサイルが着弾した時には、大部分の敵部隊がクラスター爆弾の効力範囲外に出てしまうということも十分にあるのです。強襲上陸は阻止できないのが戦史の通例ですし、クラスター爆弾を使ったから阻止できるという根拠をあげることは、誰にもできないでしょう。石狩湾を事例にすると、札幌に進撃するのに最適の石狩川西岸地域では、海岸の近くまで住宅や工場が並んでおり、海岸線のごく近くで使うとしても危険を感じるほどです。陸自は住宅への被害はコラテラル・ダメージとして織り込み済みのはずです。そう考えないと、北海道ですら使える場所がほとんどないからです。

 クラスター爆弾には風の影響を受けやすいという問題もあります。このため、味方に接近しすぎた敵には、友軍を巻き込む恐れがあるので使えません。榴弾砲の場合、普通は味方から300m程度から近い場所は狙いません。しかし、十分に調整して味方部隊から40mくらいのところを狙った実例があります。クラスター爆弾は、制圧範囲が広いこともあり、とてもではありませんが、こんな近くは狙えません。

 旧式のクラスター爆弾を使えば、日本の国土に重大な被害を残します。禁止条約によって最新型への更新が実現したのですから、それで「よし」とすべきです。本来、陸自が最新型への移行を言い出すべきだったとすら、私は考えるのです。 

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