北朝鮮のテロ支援国指定解除について

2008.6.27



 北朝鮮が核申告書を提出したことでアメリカがテロ支援国の指定を解除することになりました。

 今回の解除は昨年10月に、重油95万トンの提供と共に取り決められていたことです。この時、北朝鮮は核施設の無能力化と核計画の申告を約束しましたが、申告書の内容に関してアメリカと揉め、申告書の提出は2007年中の予定が現在まで伸びたのです。これには、北朝鮮がブッシュ政権が妥協しやすい時期を選んだ可能性があります。本来、今回の申告書に核兵器に関する事柄も含めるはずが、次の第3段階に先送りされた経緯があります。だから、日本政府はテロ支援国の指定を解除しないようにアメリカに要求していたわけで、今回の事態は以前から分かっていたことです。

 申告書の内容は少しだけ報じられていますが、十分なものかどうかは分かりません。45日以内にアメリカが内容を評価し、問題がなければテロ支援国指定は解除されますが、不十分なら解除は中止されます。私はむしろそこに関心があります。ブッシュ政権が任期切れ前に成果を得ようとしても、申告が不十分なら指定は解除できません。

 第3段階で明らかになる核兵器の申告も気になります。北朝鮮がシリアに原発の技術を輸出した疑惑で、国際原子力機関は25日に環境サンプルを採取し、核開発の事実があったかどうかを判定します。これで北朝鮮が開発に関与していたことが明らかになれば、第3段階で北朝鮮はこれについての報告を行わなければなりません。イスラエルがシリアの核施設を空爆したことで、現在進行中の核計画はないとみられていますから、障害にはならない可能性もあります。

 この先、順調に北朝鮮に対する制裁がすべて解除されるという話にはならない可能性も十分にあると、私は考えます。

 国務省のサイトによると、テロ支援国に直接関係するアメリカの法令は以下のとおり、3つあります。これらに違反していたら、確実にテロ支援国として指定を受けます。

The Export Administration Act section 6(j) (輸出管理法)
The Arms Export Control Act section 40 (兵器輸出管理法)
The Foreign Assistance Act section 620A (対外援助法)

 しかし、military.comの記事には、北朝鮮がテロ支援国に指定されたのは、大韓航空機爆破事件が原因だと書かれています。通常、テロ支援国は、資金を提供する、武器を提供する、テロリストをかくまう、などの行為によって認定されると説明されていますが、明確な定義はないのかも知れません。

 今月、北朝鮮がよど号乗っ取り犯の引き渡しへの協力を言い始めました。なぜ急に北朝鮮がよど号事件を持ち出したのかは、国務省のウェブサイトにヒントがあります。テロ支援国に関する説明の中で、北朝鮮がテロリストを匿っている事例として、よど号事件をあげているのです。

The DPRK, however, continued to provide safehaven to the Japanese Communist League-Red Army Faction members who participated in the hijacking of a Japanese Airlines flight to North Korea in 1970.

 だから、北朝鮮はよど号犯を日本に帰せば、アメリカの関心を呼ぶと考えたのに違いありません。しかし、日本にとって、これで喜ぶのは警察・検察関係者だけで、多くの日本人にとっては関心のないことです。この説明文には、他にフィリピンのテロ組織に北朝鮮が武器を売ったことが書いてあるだけで、核開発の話は含まれていません。ところが、別の国務省のサイトでは、日本の拉致被害者について触れています。

The Japanese government continued to seek a full accounting of the fate of the 12 Japanese nationals believed to have been abducted by DPRK state entities; five such abductees have been repatriated to Japan since 2002.

 いまさらですが、テロ支援国の定義は何なのかが気になりました。その明確な定義はないのかも知れません。

 テロ支援国の指定解除で心配になるのは、これまで禁止されてきた経済活動が行えるようになり、北朝鮮の財政が好転することです。アメリカも直ちに北朝鮮の益になるようなことはしないと思いますが、実際どうなっていくかをよく見ないといけません。

 拉致被害者家族の方々が、今回の措置に抗議の声をあげるのは当事者の意見として理解できることです。第三者である者たちは、それをよく聞かなければなりません。

 ところで、ブッシュ大統領の演説を聞いて、2度も拉致問題に言及していたのに驚きました。大統領は途中で1度、演説の最後にもう1度繰り返しました。当人は、日本に対して配慮はしたつもりなのだと思います。一方、福田内閣は指定解除に対して何の不満も表明しませんでした。普通、ここは「遺憾」を表明するのが妥当なところです。ここにも戦後の日本政治の欠点が表れています。

 拉致事件は北朝鮮が消滅しないと完全に完結しない。直接的に実行できるものではありませんが、可能な手立てを講じていくべきだというのが、私の以前からの意見です。そのためには、経済制裁を長期間続けるしかありません。今回の指定解除で北朝鮮が大きく潤うのなら問題ですから、いまはその程度を知りたいと考えます。北朝鮮が世界銀行などから、どの程度の融資を受けられるのか。可能になる経済活動で北朝鮮はどの程度の利益を得るのか。今のところ、これに関する報道は目にしていません。

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