米軍に見る性差別の光と闇

2008.6.24



 性差に関する興味深い記事がふたつ報じられました。

 military.comによると、米軍史上はじめての女性の大将が誕生する見込みです。陸軍資材司令部(Army Materiel Command)の副司令アン・E・ドンウッディ陸軍中将(Lt. Gen. Ann E. Dunwoody)は、国防総省から大統領に大将への昇進を推薦されました。上院が承認すれば、初の女性「四つ星」将官が誕生します。

 大将の階級は、法律によって、参謀総長を含めて11人までに制限されています。女性は戦闘任務には就かないため、これまで大将に昇進した人はいませんでした。陸軍はこの慣習を止めることにしました。現在、女性の中将はドンウッディの他に、統合参謀本部補給司令(director of logistics on the Joint Staff)のキャスリーン・ゲイニー中将(Lt. Gen. Kathleen Gainey)がいます。昇進後、ドンウッディは資材司令部の司令官になります。

 同性愛者であることを入隊の際に申告しなくてよい「聞かない、言わない政策」の下で、米軍は同性愛者の女性を除隊させ続けていると、military.comが報じました。

 「軍人のための法的防御ネットワーク(The Servicemembers Legal Defense Network)」の調査によると、14%を女性が占める陸軍で昨年、「聞かざる言わざる政策」の下で除隊させられた隊員の46%は女性でした。20%を女性が占める空軍では49%に達しました。2006年で見ると、陸軍は35%、空軍は36%でした。

 2007年初期に、ジョン・シャリカッシュヴィリ大将(Gen. John Shalikashvili)が軍隊内のゲイ差別撤廃を支持する発言をしましたが、未だに半数近くが除隊を余儀なくされているのが実態です。男性隊員の除隊数は次のとおりです。

 陸軍  2006年→280人、2007年→302人
 空軍  2006年→102人、2007年→91人
 海軍  2006年→166人、2007年→116人
 海兵隊 2006年→68人、2007年64人

 軍隊と性差の関係史はきっと興味深い研究対象になるでしょう。米軍では、男性よりも立場が低い女性よりも、同性愛者の立場はさらに低いという皮肉な現状があります。SF映画では未来の軍隊は完全な男女同権として描かれることが多いのですが、実態はまったくの逆です。改善の努力も払われていますが、まだ十分ではありません。クリントン政権は軍隊の同性愛差別撤廃を公約にしましたが、軍の反対で実現せず、ブッシュ政権は熱烈なキリスト教信者で構成されていたため、チェイニー副大統領の娘が同性愛者であるという事実があるにも関わらず、同性愛者に対してはまったく理解を示していません。同性愛者が軍隊にいても、大きな問題は起こらないということは最近知られるようになってきましたが、まだ十分に認知されていません。宗教的な信条から、同性愛が罪だと考える人も多いのです。問題が解決されるのは遥か先です。 

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