通り魔は拳銃で制圧できたか?

2008.6.13



 秋葉原の通り魔事件で、犯人の取り押さえに関する議論が起きています。警察OBからは絶賛する声がありますが、現場にいた人たちからは、警察官が警棒を落としたので犯人が逃げ、その途中でさらに人を刺したという批判があります。J-CASTニュースは、拳銃を使えていれば犠牲者はもっと少なかったと主張しています。

 しかし、拳銃を使って犯人を取り押さえられたかどうかは分かりません。流れ弾で逆に犠牲者が増えた可能性もあります。人通りが極めて多い中であり、拳銃を使うのをためらったのはそれほどおかしい判断ではありません。私はむしろ、逮捕する直前、容疑者を立たせたまま警察官が接近しているのが気になりました。まず、地面に這わせた方が安全だったように思われます。現場では、通行人から警察官に「足を撃て」という声があがったといいます。しかし、警察官が劣勢なのが分かっているのなら、通行人には容疑者の真後ろに回ってタックルする選択肢があったように思えます。地面に押し倒せば、警察官が武器を容疑者から取り上げてくれると信じて突っ込むしかありません。

 強烈な威力を持ちながらも死亡する可能性が低いゴム弾や電気ショックを与えられるテーザー銃、催涙スプレーなど、非致死性の武器を都市部の警察官に支給することを検討すべきかもしれません。こういう事件では、マスコミは拳銃を使えと言いたがりますが、私はそれには否定的です。アメリカでも犯人を射殺した警察官は強いショックを受けるものです。緊急時に、何の躊躇いもなく発砲できる者はほとんどおらず、むしろそれが普通なのです。

 ところで、容疑者が興味深い供述をしています。「何人かをはね、警察官を刺したことまでは覚えている」というのは、嘘ではなく本当に記憶がないのでしょう。10日の記事で引用した「『戦場』の心理学」に、こうした記憶の欠如は、実は警察官がよく体験することだと書かれています。戦闘中の興奮が記憶を失わせるのです。現場で治療にあたった医師も、ベストを尽くしながら被害者を助けられなかったことを残念だと述べています。こうした心理は大きな事件に遭遇した時に誰もが抱く感情だと、「『戦場』の心理学」は詳細に解説しています。

 J-CASTニュースでは新聞の論説委員の意見を引用し、「警察官が銃を使用して発砲する際には、周囲の安全や事前に予告することなどがルール」と書いていますが、これは正しくはありません。凶器を持った相手に対しては、警告はしなくてもよいように内規が改正されています。拳銃使用の是非は、あくまでケース・バイ・ケースで判断されます。容疑者が抵抗したら、すぐに撃てるわけではなく、緊急性が低い場合は警告が必要とされます。

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