来年度の戦費要求は700億ドル

2008.5.4



 まだ入院中です。治療は順調に進んでいますが、更新を再開するまでにはもう少し時間がかかる見込みです。一時帰宅できたので目についたニュースについて書いてみます。

 military.comによれば、ブッシュ大統領が10月1日にはじまる次会計年度の予算として、イラクとアフガニスタンのために700億ドルの戦費を議会に要求しました。700億ドル中、450億ドルは戦闘のため、30億ドルはIED対策、20億ドルは価格高騰中の燃料のための費用です。2001年9月11日以来、アメリカは8,750億ドルの戦費を費やしていると記事は書いています。現在の会計年度の戦費は1,080億ドルです。次年度は今年よりもやや少ない金額が要求されているわけです。IED対策は効果を生まないことが見えている無駄な予算です。それでもやらないわけにはいかないので計上されています。

 この予算に含まれるのは直接的に戦闘に使われる費用だけで、傷痍軍人の治療費や障害手当は含まれていません。実際にはこれ以上の費用がかかります。次年度の復員軍人援護局の要求予算は937億ドルです。遥か過去の現役軍人のための予算も沢山含まれているとはいえ、軽く2倍を超える費用が戦争のために使われています。ほかにも国防総省の運営費や新兵器開発のための費用があります。隠れて直接見えない予算を含めると金額はもっと増えます。連邦予算に関しては、ホワイトハウスのサイトに詳しい情報があります。

 military.comによれば、去る4月11日、ニューヨーク出身で「奇跡の男」と呼ばれていた22歳の海兵隊員が死亡しました。2005年2月22日にIED攻撃で負傷し、体の97%に火傷を負って治療中だったマーリン・ジャーマン三等軍曹(Sgt. Merlin German )は、40回以上の手術に耐え、17ヶ月間火傷と戦っていましたが、遂に力尽きたのです。ワシントンが思い切った方針転換ができない中、アメリカの若者が戦いに倒れて続けています。彼が生存し続けられたのには、医療の進歩も大きく関係しています。近年の外科医療の進歩は凄まじく、かつてなら死亡した人が生存できるようになっています。しかし、だからといって、安易に戦端を開くのは禁物です。

 ところで、今年は対テロ戦争関係の映画が多く作られています。アメリカの若者が対テロ戦争で無駄に死んでいることを描いた映画「大いなる陰謀」には、「アメリカ国民がイラク侵攻を正当化したのは、誤った情報を与えられたからだ」というセリフがあります。この作品はとても興味深い内容ですが、アメリカ国民の戦争を見る目の限界も見せつけます。サダム・フセインがアメリカ相手に本気で戦争をする意気がないことは、容易に想像できたはずです。アルカイダのような急進的なグループと関係することは、イラク領土の維持を永遠に続けたいフセインにとって得策ではありません。フセインがクゥエートに侵攻したのは、米軍が奪還に来ないと踏んだからでした。湾岸戦争で米軍はイラク軍と戦いました。その強烈な印象が残っているから、フセインが敵だと思い込むのは理由はあると言えますが、純粋に軍事的に損得を検討すれば可能性が小さいことは読めたはずです。まして、大量破壊兵器の話になると、話はさらに荒唐無稽でした。攻撃はアルカイダに集中しなければならないと、私は当時考えました。しかし、アメリカは判断を誤り、イラク侵攻の準備を始めました。そのあとに、アメリカに追随しようとする日本の政治家や文化人たちが現れるようになり、さらに失望させられました。

 常に言うことですが、軍事的な判断は、問題が起きたその時に、的確に行われなければ意味がありません。後になってあれこれと言ったところで「後の祭り」なのです。問題が起きた時、完全な情報を手に入れられることは希です。不完全な情報から全体像を推察し、的確に判断をくだすのです。それを誰がやるのかと言えば、むしろ一般国民でなければならないと、私は考えます。政治家は判断を誤りがちで、軍人は政治家に逆らおうとしません。現代のアメリカ人は日本人にとって反面教師となります。国民が戦争について正しく判断できない国では、政府が誤った戦争を始めるということです。

 話は変わりますが、ヴァージニア州に住む南北戦争物のコレクター、サム・ホワイト氏が、140年前に作られた砲弾を自宅でレストア中に爆発して死亡したという珍しい事件も報じられています。爆弾の専門家は、南北戦争時代の不発弾は地面に落としても爆発しないといい、ホワイト氏の妻は夫はすでに信管を取り外していたと述べています。別の専門家は、ホワイト氏が砲弾から砂を取り除くために、ドリルかドリルを取りつけたグラインダーを使い、火花を出したのが原因と推測しています。爆発した砲弾は船を攻撃するために防水機能があったとも記事には書かれており、そのために火薬が爆発能力を失わなかったのかも知れません。

Copyright 2006 Akishige Tanaka all rights reserved.