米陸軍兵士の自殺率は2004年の2倍増し

2008.5.30



 military.comによると、昨年の陸軍隊員の自殺が増加し、2007年の自殺者は108人で、前年の6人増しだったと国防総省が発表しました。約4分の1の自殺はイラクで発生しました。

 1月の時点で公表された暫定値は121人であったため、当初、数値はもっと多いと見られていました。ここ数年の自殺者数は、2004年が67人、2005年は85人、2006年は102人と増加する一方でした。2004年と2007年とでは2倍近く増えていることが分かります。

 記事は、自殺者の増加は12ヶ月から15ヶ月へ増やされた派遣期間が影響していると書いています。長い派遣期間はそれだけ兵士にストレスをもたらし、自殺を増やすというわけです。軍は自殺防止プログラムを実施し、300人の精神科医と心理学者を雇用することに決め、180人を雇用しました。

 陸軍参謀本部人事部長マイケル・ロシェル中将(Lt. Gen. Michael Rochelle)によると、対テロ戦争で自殺した陸軍兵士は、少なくとも580人いると述べています。復員軍人援護局によると、2002〜2005年までに1回以上の戦闘を経験した50万人近い退役軍人が144人自殺しました。議会調査部は、退役軍人の本当の自殺率は不明だとしています。疾病対策センターの数字では、すべての戦争の退役軍人で見た場合、1日あたり18人、1年あたり6,500人が自殺しています。

 自殺者の正確な数字も分からないのかと思われるかも知れませんが、退役軍人に関する統計は大体こんな感じです。これには退役後にホームレスになり、身元不明のまま処理された数は含まれないでしょうから、実数はもっと多いはずです。州兵や予備役の中には、務めていた職場から派遣される人もいます。こうした場合、企業はその人が帰還した場合に戻るべきポストを残しておくことになっているのですが、約束が守られない場合もあります。その結果、退役軍人の一部は失業してしまうかも知れません。愛国者シンドロームの強いアメリカでも、実態はこんなものです。

 記事が書いているとおり、自殺者の増加は極めて憂慮すべき事態で、専門医が不足しているのも、以前から指摘され続けています。

 こうした事態は放置され、軍だけに対処が任されています。政治の世界では、こうした問題はどうしても後手になりがちです。政権はそれよりもスコット・マクレラン氏の本に反論することに忙しいようです。別の記事でドロドロの責任転嫁劇が紹介されています。日本でも自衛官の自殺率の増加が国会で取り上げられることはありますが、内閣が積極的に動くことはありません。国会での議論の実例として、平成15年10月7日の参議院外交・防衛委員会で、元検事の佐藤道夫参議院議員から石破茂防衛庁長官(当時)に対する質問を紹介しておきます。

佐藤道夫君 さるマスコミの報道によりますと、自衛隊員に自殺者が増えていると。年々増えて、間もなく年間百人に達するだろうと、こう言われておるわけですよ。我々は自衛隊をイラクに派遣していいのかということを真剣に議論しているわけですけれども、派遣される自衛隊員が何しろもう国内でも腐り切っちゃって自殺まで考えていると。一体これは何だろうかと。訓練が厳しいからと言い出したら、それはもうあの砂漠の中で照らされて、日陰一つないところに派遣したらもう自殺者が続出するんじゃないかと、こういうふうにも言いたくなるわけでありましてね。
 そして、大変問題なのは、上司のいじめが原因だということをマスコミは取り上げておりました。何かすぐ理由を付けてがんがん殴り付けたりもすると。そういえば、戦前の日本軍隊の上官のいじめというのは大変なものがありましたからね。みんな軍隊に入って、それをもう本当に殴られて、けられて、もう死ぬ思いでしたと。年寄りに聞いてごらんなさい、みんなそういうことを言いますから、二等兵、一等兵時代は。それが昔から日本の軍隊の訓練だということになっているのか。
 いずれしろ、この自衛隊員の自殺が多いということについて、原因がどこにあるのか、対策は何か進めておられるのか、これは大変大事な問題だと思いますので、長官から親しく御答弁いただきたいと思います。

国務大臣(石破茂君) この御指摘は、さきの国会におきましても吉岡委員からいただきまして、そのときも答弁を申し上げました。これは本当に深刻にとらえております。
 現在、速報ベースで申しまして、十月六日現在四十一名ということでありますから、別に三けた行かなきゃいいという話じゃありませんで、とにかく自殺というのは限りなくゼロにしていかなければ駄目なんだというふうに思っています。その原因というものを考えてみたときに、病苦、借財、職務、家庭と、その他不明と出てくるわけであって、その他不明では分からぬではないかということを申しております。
 先生御指摘のいじめというものが、私は、この中には出てきませんが、ないとは思いません、正直申し上げて。本当にまじめに一生懸命やっている者ほどいじめに遭っちゃうという話も聞いたことありますし、私は防衛庁長官に就任いたします前に、本当に真剣に国のことを思って大まじめに取り組んでいる人間が疎外されちゃうというようなこともあるというような話を聞いたことがございます。私、全国あちらこちら歩いていて、いじめというのは本当にあるんだという話を聞いております。
 今、電話相談というものも始めましたし、そして七月十五日にはそういう対策本部というものも設置をいたしました。
 データを見ますと、やはり年齢によって差ができる。つまり、一般男性よりは自衛官の自殺の率は低いのですけれども、三十代男性というものを取ってみると逆転現象が起こって一般人よりも多いというのが出てきます。また、地域別にもばらつきがありますし、そして陸海空別にもばらつきがあります。それは理由のないことだとは思っておりませんので、それぞれ一つ一つ精査をしながら、どうしてこんなことになるんだということはきちんと明らかにしなければいけません。人一人の命が失われるというのは大変なことでありますので、そのことについていい加減にしようとは思っておりません。私は、自殺が確実に目に見えて減ったという形にいたしませんと、対策本部を作ったって何の意味もないと思っております。
 また同時に、いじめる側が実はいじめたという意識を持っていないと。この程度で死ぬとは思わなかったと思っても、本人にしてみればすごくいじめられたという例もあるんじゃないか。自殺をする側も問題ですが、いわゆるいじめをしている側に対して、どういうふうに我々は取り組むべきなのかということもきちんとやりませんとこれは減りません。
 ここで自殺というものの撲滅に向けて全力を尽くしていきたい。先生はいろんな方のいろんな御意見をお聞きでしょうから、是非こういうようなアイデアがあるということがあれば御教示をいただきたいと思います。

佐藤道夫君 これは実は警察官の自殺とほぼ同数であるというふうに報道もされております。
 考えてみれば、警察官、日夜新聞その他で大変な犯罪と今直面しておりまして、もう朝から晩まで追いまくられて、そのために新しく発生した事件もやっている暇もないといって、またそれで何をしているんだということを世間から言われると。ついに職務に耐えられなくなって自殺するんだと、警察官の自殺はですね。
 ところが、自衛官の自殺、率直に言いますと、仕事は何だと言えば訓練をすることですよと。現に敵と直面をして生きるか死ぬかのことをやっているわけじゃないんであって、イラクに行ったらこういうことをやったらどうだとか、率直に言えばこれは極めてのんびりした仕事じゃないかなと。ですから、仕事上の悩みから自殺を遂げるということはなかなか考えられない。一体何だろうかと。やっぱりこれは原因をきちっと把握して対策を、どういう対策がいいのか、どういう原因があるのか聞かれても私らは何も答えるすべはありませんから、長官が責任を持ってその辺は解明をして、本当に心身ともに健全な隊員をイラクに派遣するというふうにしていただきたいと思います。

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