週刊文集が空挺による救援を疑問視

2008.5.28
同日18:30修正



 15日の記事で、四川大地震に中国軍の空挺部隊が投入されているという報道について疑問を提示しましたが、週刊文集5月29日号の記事によると、空挺部隊が降下する模様が新華社から配信されました。

 それによると、アナウンサーは「四千メートル級の山岳地帯ゆえ、空気の薄い五千メートルからの降下を初めて行ったのです!」と説明したといいます。空気が薄いとパラシュートを開いても降下する兵士の速度が落ちるのが遅いから、1千メートルも降下に必要だったという意味なのでしょう。

 しかし、兵士たちが「自動索降下」という、通常の空挺作戦で用いる方法で降下している点を、防衛庁では疑問視していると記事は書いています。この方法では、兵士は自動索を機内に取りつけてから降下します。自動索はパラシュートの引き綱であり、兵士が降下するに従ってピンと張られ、自動的にパラシュートが開く仕組みです。記事は詳しくは解説していませんが、これが疑問だとしています。このまま1千メートルも降下したら、パラシュートはそれほど自由に移動できないために、部隊は広く拡散して着地することになります。そうすると部隊の集結が困難になり、作業の開始が遅れます。下手すると、降下した隊員を全員集結できないこともあります。自由降下方式では、決めた高度で自分でパラシュートを開く方法を使います。パラシュートを開く前に兵士が空中で集合し、それから散開してパラシュートを開けるので比較的狭い地域に降下できます。これは敵から発見されることを極力防ぐためでもありますが、狙った位置に正確に降下するためにも有効です。

 さらに、兵士が軽装で荷物が少なすぎる点も記事は指摘しています。兵士には食糧や飲料水が必要です。それらがないと、彼らは降下後に被災状態に陥ります。道が数日で開通するという確実な見通しがあるのならともかくも、その見込みがない段階では、必要な物資を持たせ、さらに降下と同時に補給品も投下する必要があります。食糧や医薬品は被災者が必要としていますし、救援活動用の機材は兵士とは別に降下させる必要があります。記事には、物資を投下する輸送機も映像に写っているとは書いてありません。可能なら軽車両も投下します。投下した補給品をかき集め、補給拠点を作るには、人力では効率が悪すぎます。

 記事は、この映像が「国策的な演出」であった可能性を指摘しています。私はその映像を見ていませんが、記事の通りならその通りだと考えます。そもそも、救援活動で空挺作戦を用いること自体が非効率的だということに気がつくべきです。

 さらに、記事はヘリコプターの運用がほとんどないことにも疑問を呈しています。今月15日の記事で、私もこの点を指摘しました。テレビ映像を見る限り、中国軍は近代的なデザインの制服を着ているものの、やっていることは相変わらずの人海方式です。崩落する恐れがある山道を徒歩や車両で被災地に向かい、2次災害に遭っている事例も見られます。そうした場所は大型ヘリコプターでジャンプするのが常識です。それがごく一部でしか行われていないということは、中国軍のヘリコプター部隊は公表されているよりも相当に規模が小さいのかも知れません。中国が日本に被災地への空輸を依頼してきたという報道もあります。空輸の内容が記事によって様々なので、どれが本当なのかは分かりませんが、事実なら日本政府は積極的に請けるべきです。

 そういえば、石原慎太郎都知事が防災訓練で、東京都内に空挺部隊を降下させたいと言い出して、陸自が断ったことがありました。この時は、被災地の情報収集のためという名目でした。同じことをしたいのなら、ヘリコプターで兵士を被災地に投入した方がよく、それよりもヘリコプターで空から被災地を掌握した方が効率的です。家屋の倒壊、火災、交通状態などは、一端、地上に降りてしまうと徒歩で移動する空挺隊員には把握しにくいということを理解しなければなりません。軍事知識がない人には、空挺作戦はうまい手のように思えるかも知れません。しかし、それはとんでもなく的はずれな発想です。そうした発想を日常的にしている人はいないでしょうか。それが災害派遣ではなく、国際紛争について行われると、イラク戦争のような不毛を生み出すのです。

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