北京の人工雨は本物か?

2008.4.26



 まだ入院中ですが、一時帰宅を許されたので、ちょっとした記事を書いてみることにしました。

 お昼のテレビ番組「ピンポン」(4月23日放送)で、北京オリンピックの話題をやっていました。最近、オリンピックに先立って行われた北京マラソン大会で土砂降りが降ったのは、人工的に雨を降らせたのだという話題でした。

 中国の新聞によると、中国では化学物質を1万数千個空に投下し、さらにミサイルで4万数千個撒いて雨を降らせる実験をしているという話です。番組によると、同種の実験は日本でも行っていますが、効果はほとんど出ていないという話でした。番組が中国の気象台に問い合わせたところ、そのような技術は存在しないという返事でした。それでも、番組は人工雨が事実だとして話を進めました。

 中国の報道はそもそも内容に疑問があります。どれだけの期間で化学物質を撒いた量かは不明ですが、数があまりにも多すぎます。これは小さな固形物質を多数撒いたという意味なのでしょう。しかし、これは別の疑問を生みます。固体は空に撒いてもそのまま地面に落下し、雲の生成に影響を当たるとは思えません。散布されるのは液体か気体であるのが自然で、その量は容積で表現されるのが合理的です。

 また、ミサイルで化学物質を散布するのは、比較的価格が安い短距離ミサイルの場合としても、コストパフォーマンスは最悪です。それに、ミサイルで都会の上空に化学物質を安全に散布するのは不可能です。理由は簡単で、散布後、空になった弾頭が首都に落下するのを避けられないからです。弾頭にパラシュートをつけたところで、どこに落ちるかは分かりませんから、このような対策は実行できるわけがないのです。ミサイルはスピードが速すぎて、散布範囲をコントロールしにくい点も問題になります。

 化学物質を広範囲に散布する最もよい方法は航空機を使うやり方です。アメリカがベトナム戦争でやった方法や農薬を撒く航空機を連想してください。薄く広く撒くには、これが最適です。特に、雲に影響を与える目的なら、この方法しか考えられません。

 こうした知識はNBC兵器について考えるときに役立ちます。弾道ミサイルに化学兵器や細菌兵器を搭載するのは技術的に難しく、化学兵器でもコストパフォーマンスに疑問があり、細菌兵器になると技術的な問題に加えて、効果をほとんど予測できないという問題があります。高額の弾道ミサイルを使って、化学兵器の効果がせいぜい数キロ程度にしか及ばないとすれば、誰もそれを使おうとは思いません。ミサイルは大気圏中で高熱になり、宇宙空間では冷やされて温度が下がり、再突入で再び高温になります。この環境で細菌が死なず、広範囲に散布する弾頭を作るのは困難でしょう。また、首尾よくそれが実現したとしても、本番で予定通りに細菌が活躍してくれるとは、誰にも分からないのです。化学兵器、細菌兵器のどちらも、エアゾル化して散布するのは結構難しいのです。特に、長距離弾道ミサイルの場合は、ほとんど考えられないほど非効率的な手段だと考えられます。

 なお、末筆になりますが、私に見舞いメールをお送り頂いた方々に感謝します。

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