対テロ戦と米大統領選挙

2008.3.19



 ジョン・マケイン議員とディック・チェイニー副大統領がイラクを訪問して、共和党によるイラクの成果を強調しました。それを信じる人は少ないかも知れませんが、最近の世論調査によると、イラク政策が進展していると考えるアメリカ人が増えているようです。

 しかし、それは楽観的観測に過ぎず、イラクの治安が安定したと結論する理由は見出せません。カルバラでは爆弾事件が起こり、大勢が死傷しました。この事件には、女性による自爆テロの疑いがかけられています。米兵の戦死数は下がったままですが、いつ上昇しても不思議ではありません。正規軍同士の戦いなら、かなりの部分を予測することができますが、現在のような広範囲でテロ事件が起きているような状況では、その状況は正確に把握できないのです。正規戦の場合、情報がいくらか欠けていても、参加している兵数がある程度分かっていれば、その動静は数字で予測できます。しかし、爆弾事件を起こす秘密組織の様子を正確に把握することは困難です。米軍はもっと情報を持っているはずですが、それでも完璧にはほど遠いのです。意外と、米政府でも中東の対テロ活動に関する情報に無頓着で、中東の政府がテロリストを逮捕してもすぐに気がつかないといったことも起きています。

 さらに、先日、イラクの外国人戦士はサウジアラビアだけでなく、北アフリカ諸国からも来ているという点です。アルカイダがその南にあるソマリアやスーダンのようないくつかの国にも刺さり込んでいることは明らかです。アフガニスタン、パキスタンも含めると、アルカイダの活動範囲は広大です。これ自体がすでに異常な状態で、イラクの治安が多少上下したところで、対テロ戦の全容は大して変わらないと考えるべきです。半年後がどうなっているかは、まったく分かりません。

 マケイン議員は保守層の支持を得るために、いつまでもイラクに駐留する政策を選びました。民主党の二候補はいずれもイラクからは撤退すると主張しています。大統領選挙がイラク戦争の行方を大きく左右することは、アメリカの有権者はよく知っています。民主党の候補はお互いを激しく攻撃し、本選で票が割れる危険性も指摘さているようですが、私はそうは思いません。候補者選びが終われば、負けた方は共和党候補が当選すれば、イラク戦がどうなるかをはっきりと自覚します。結局、勝った側を応援することになります。これまで、アメリカはそういう大統領選挙を繰り返してきました。

 前にも書きましたが、イラク・アフガン情勢が大統領選挙に大きな影響を与えるのは間違いがなく、これをポイントとしてよく観察していく必要があります。イラク情勢が安定するようなら共和党候補が有利、その反対なら民主党候補が有利となります。そうなると、マハディ軍の休戦が重要な要素になることも見えてきます。彼らや彼らから分裂した一派がどのような行動を起こすのかによっても、アメリカの有権者は敏感に反応するでしょう。アメリカの最も愚かな選択肢は、イランを攻撃して、マケインを戦時の大統領にしてしまうことです。まさか、そんな選択はしないと思いますが、イラク侵攻も「まさか」の事態でしたから、心配は残ります。

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