「拷問は必要ない」と元尋問官が主張

2008.12.8



 元尋問官が「拷問が機能しなかった」ことを述べる本「テロリストを打破する方法 力を使わず頭を使う米国情報部員、イラク最凶の男を倒す(How to Break a Terrorist: The US Interrogators Who Used Brains, Not Brutality, to Take Down the Deadliest Man in Iraq.)」を出版したとmilitary.comが報じました。

 1996年にイラクで諜報チームを率いた特殊情報作戦士官マシュー・アレクサンダー(Matthew Alexander・保安上の理由により仮名)は、自ら300回以上の尋問を行い、多くの尋問を指揮しました。この功績で彼は、青銅星章(Bronze Star)を授与されています。彼は、暴力を用いない尋問方法を用い、拷問は相手から嘘の情報をつかまされると批判します。拷問は効果がなく、我々が達成しようとしていることについて非生産的だと彼は述べます。拷問をすることにより、相手は偽の情報をつかませてやろうと決意を固めるので、拷問で得られた情報はあてになりません。また、拷問を用いることは、多くのテロリストに米兵を殺そうという動機を与え、拷問が行われている事実はテロ志願者の募集に使われているとも指摘します。イラクで用いられた拷問は終始一貫して信頼できる情報を得るのに失敗し、信頼関係に依存する陸軍フィールドマニュアルに示される尋問方法が有効であったといいます。この本には意外な事実も書かれており、今年7月の世論調査で、44%の人がテロ容疑者への拷問を支持したといいます。議会でも拷問作戦の中心的人物ダグ・ファイス(Doug Feith)が、拷問が必要だと証言し、多くの議員が賛成しました。


 この記事は興味深いものです。一般人は拷問が必要だと考え、実際に1996年はクリントン政権の下でイラクの武装解除問題が進行中でした。クルド人のテロ攻撃が激化し、トルコがイラクに越境攻撃を行い、イラクもクルド人区域に侵攻しました。アレクサンダーはこの時期にイラクで活動していたようです。彼によれば、拷問は意味がないどころか悪影響が心配されますが、一般の人びとや議員は賛成する人が多いのです。こうした問題を描いた映画には「マーシャル・ロー」があり、拙著「ウォームービー・ガイド」でも取り上げました。本土が攻撃されたとなると、それまでは穏健派だった人までが途端に強硬な方法も止むなしと考えるようになります。「悠長なことを言っている場合ではない」というわけです。しかし、こういう発想は戦争にまつわる複雑な事情を無視しています。アブグレイブ刑務所やグアンタナモベイ収容所は、テロリストたちにとって、打破すべき目標として、象徴的な役割すら果たしてきました。こうしたことを問題視する人はいましたし、当サイトでも同じことを主張してきました。しかし、ようやく専門家からそうした意見が提示されるようになったのです。同時多発テロ以降、狂った軌道が少しずつ元へ戻されようとしているという気がします。



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