ガザ紛争が地上戦へ発展する可能性が高まる

2008.12.31



 ワシントン・ポストによると、イスラエルのイスラエルのエフード・バラック防衛大臣(Ehud Barak)がハマスに対する総力戦(All-Out War)を宣言しました。このまま地上戦に突入する可能性が極めて高い状況となっています。現在までにパレスチナ側の死者は364人、イスラエル側は4人に増えました。

 ハマスは2006年のヒズボラの勝利を参考にしてイスラエルを挑発しています。この年、イスラエルは1万人以上の兵数を投入してヒズボラに勝てませんでした。装甲部隊を伴う精鋭がPRG等を持ったゲリラに前進を阻止されたのです。前回はイスラエル北部での戦いでした。今度は南西部です。両方で敗北することは、イスラエルにとって耐えられない屈辱となります。ワシントン・ポストは、ガザ地区からエジプトに向けて掘られた密輸用の地下トンネルがハマスに力を与えていると書いています。日曜日にイスラエルは、40のトンネルを破壊しましたがいくつかは残っているとみられます。これで気がつく人がいると思いますが、エジプト国境に近いラファが攻撃されたのはこのためです。ガザ地区の物流は止まり、住人はハマスに生活物資を依存しなければならない状況です。

 ガザ住人の生活は楽ではありません。西岸地区にあるビア・ジート大学(Bir Zeit University)の政治学者アリ・ジャバウィ(Ali Jarbawi)は、それがポイントかも知れないと述べています。「彼ら(イスラエル)がいま行っていることは、ハマスの支配を受け入れているガザ住民に対する罰のようなものです。彼らは、イスラエルがいつでも負荷の高い攻撃ができるのだから、今後ロケットで攻撃をしないというガザ住民の記憶をそのままにしておきたいのです」。イスラエルの高官は、ガザ住民のハマスに対する支援が弱まっていることに希望を持っていると述べています。イスラエルとパレスチナのアナリストは、イスラエルの戦略が、ハマスをイスラエルの用語でいう「停戦」に署名させるまでに弱体化させられるように思われると述べています。しかし、パレスチナの立法委員会のジャウィヤ・シャワ(Jawiya Shawa)は、これが裏目に出る可能性も指摘しています。大学やモスクに対する攻撃は住民とハマスを結びつけ、内部の反対意見を無力にしていると、彼は述べます。

 最後の引用部分が重要です。ガザ住民とハマスがどれくらい団結するかが、この戦いの結末を左右します。そして、こうした事柄の評価は非常にむずかしく、予測は困難です。ハマスが徹底抗戦するのは間違いがありませんが、ガザ住民がどこまでついていくかが問題です。しかし、イスラエルに頼れない以上、ガザ住民は最後までハマスを支援する可能性の方が高いと考えられます。

イスラエルによる空爆の正当性

 昨日の記事で、イスラエルの空爆の方がハマスのロケット・迫撃砲の攻撃よりも強力だということに触れました。これには、自衛戦争を行う場合の「均衡性原則」について説明する意図がありました。これは自衛戦争を行う場合の戦闘の強度は、相手の攻撃に応じたものであるべきだという原則です。潘基文(バンギムン)国連事務総長がイスラエルの自衛権は認めがら、「空爆は度を越している」と主張したのは、この原則に依拠しています。彼が、29日に「周辺地域や国際社会の指導者の対応が不十分だと不満をもらしたのは、緊急性による自衛戦争の概念だけが国際社会に認識され、均衡性原則が無視されているためです。

 均衡性原則を説明するために、国際法の専門家はよく、1837年に起きた「カロライン号事件」を古典的な事例として引用します。当時、イギリス人はアッパーカナダ(現在のオンタリオ)で本国から独立しようとする勢力と戦っていました。アメリカは当時の大国イギリスに逆らうつもりはありませんでしたが、国内のニューヨークで私兵が招集されるのは黙認していました。集まった私兵と武器をナイアガラ川のカナダ側へ輸送するのにアメリカの蒸気船カロライン号が使われていましたが、イギリス軍はこの船を夜襲して船に放火し、ナイアガラ瀑布へ突き落としました。攻撃時、船の中には就寝中の民間人多数がいました。この事件でアメリカ国民を含む民間人の死傷者が多数出ました。当時、「自己保存」の原則が国際社会で一般に認められており、イギリス軍の行為はこれに依拠するものとされました。しかし、後に事件の首謀者がニューヨークで逮捕された時、アメリカの国務長官ダニエル・ウェブスターが示した見解が「ウェブスター・フォーミュラ(ウェブスター定式、もしくはウェブスター原則、ウェブスター見解とも書かれます)」となり、自衛戦争の基本的原則となりました。その後、国際法の環境も変化し、戦争が非合法化されましたが、この原則は今も用いられています。ウェブスター・フォーミュラは簡単に言えば、自衛戦争が正当化されるためには、緊急で、圧倒的で、他に手段がなく、協議する時間のない事態である必要があるというものです。また、戦いの手段も行き過ぎておらず、正当性を説明できることを条件としました。

 しかし、イスラエルはこう考えているはずです。ガザ地区からロケットと迫撃砲がイスラエル領内に撃ち込まれている以上、そうした攻撃を止めるには、ロケットと迫撃砲およびその砲弾類を破壊する必要があり、それらの搬入に一役かっているトンネルも破壊する必要がある、と。その結果、空爆や地上戦はイスラエルにとって合法的な手段となるのです。でも、端から見れば、イスラエルは明らかにやりすぎです。死者の数がパレスチナ側に圧倒的に多いためです。それでもイスラエルは、戦争で死者の数までコントロールできず、攻撃の目的はロケット・迫撃砲の攻撃を止めさせることで、市民の殺傷ではないと主張するでしょう。

予測される地上戦の様相

 イスラエルは車両に搭載したロケットの発射装置や迫撃砲、砲弾は簡単に隠せません。おそらく、地中に隠す方法が用いられているはずですが、地中レーダーなどでくまなく捜索できます。侵攻に成功すれば、イスラエルは間違いなく目的を達成できます。

 ガザ地区の地形は平坦で農地が多く、道路もよく整備されていることから、防御側が天然の地形を利用するのは困難です。よって、ヒズボラとの戦いのように、イスラエル軍が前進を阻止されるようなことはありません。ガザ地区は細長く、イスラエルはガザ地区の南部からも侵入できます。しかし、ハマスは都市部の中心にロケットや迫撃砲を集め、周辺に兵を配備する作戦を練っているかも知れません。すると、面積の大きな都市が主戦場になる可能性があります。北部のガザ市、ハンユニス市を中心に、こうした防御戦が展開されるかも知れません。市街戦が中心であることから、一般市民の犠牲者が続出し、都市部に設置されている国連の難民キャンプすら被害を受ける恐れがあります。

 2006年にイスラエルは機甲部隊を投入し、RPG攻撃によって何度も進撃を頓挫させられました。車両がRPGで破壊されると道路がふさがり、車両を撤去して、死傷した乗員を回収しないと進撃できないからです。これは天然の地形だけでなく、都市部でも起こり得ます。この種の待ち伏せ攻撃に対して、決定的な対処法は存在せず、2006年のヒズボラとの戦いに似た状況が生まれる可能性があります。イスラエルは激しく抵抗する地域を砲爆撃し、ハマスの戦士が抵抗できないようにするでしょう。戦場が都市部であるため、こうした攻撃は市民多数を殺傷し、難民をさらに生み出します。ハマスはむしろ、こうした攻撃をイスラエルに起こさせ、国際社会の批判を集めることを期待しているのかも知れません。何もしなければ、永遠に失われた国は戻りません。彼らにとって、こうした活動を繰り返すのは意味のあることなのです。戦いの行く末は、ハマスがどれだけの準備をしているかに左右されます。ハマスの戦士が砲空爆の被害を避ける地下壕の数、地下を移動できるトンネルの数、武器の備蓄量がポイントです。しかし、こうした情報は第三者にはまったく手に入らないため、戦いがどれだけ続くかや結末を予測することは困難です。

 日本はこうした事態を傍観するのが常でした。有効な手を直ちに打てるものではないとしても、何からの努力をするような政府が日本にあって欲しいものです。それには、国民の多くがそれを望むようになる必要があります。

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