オバマ次期大統領の国防政策

2008.12.3



 バラック・オバマ次期大統領の国防政策に関するニュースがいくつか出てきました。すでに、ロバート・ゲーツ国防長官は留任、国務大臣はヒラリー・クリントンが就任すると決まりましたが、国家安全保障問題担当顧問に退役したジェームズ・ジョーンズ海兵隊大将(Gen. James Jones)が就任することが決まりました。military.comの記事などから関連する情報を探ってみます。

 まず、中国政府がオバマ政権を歓迎する意向との記事があります。これは中国政府のアメリカに対する社交辞令、ご祝儀みたいなもので、記事にも特に注意すべき事柄は載っていませんでした。

 具体的な国防政策については、変化はゆっくりと起こるだろうとの見方を示した記事があります。現在、国防総省の年間予算は戦争の費用を除外すると5,400億かかっています。この数字は今後、しばらくの間、そのままか徐々に増加する見込みです。イラクとアフガニスタンで失われた兵員と装備品を補充するために必要な予算です。共和党のジム・タレント上院議員(Sen. Jim Talent)は、オバマ次期大統領が経済を刺激するために防衛予算を活用しようと考えるかも知れないとの見解を披瀝しています。イラクとアフガンで失った装備品の補充と軍の近代化のためには500億ドルが必要なためです。私はこれはブッシュ政権でも避けられない費用で、オバマ新政権の責任にはできないように思われます。戦略予算評価センター(the Center for Strategic and Budgetary Assessments)のアナリスト、スティーブン・コジアク(Steven Kosiak)は、キノコ雲状に増える医療費の増大により、国防を含めた連邦予算は緩やかに削減されるべきだと主張します。これは、DDG-1000駆逐艦、フォード級空母、未来戦闘システム(future combat system)、F-35戦闘機などの計画を遅延するか中止することを意味します。

 これはオバマ新大統領の政策のためというよりは、これまでの戦争政策に原因があります。アメリカの国防予算はタイタニック号のようなもので、氷山を避けようとしても、すぐには針路を変えられないということです。

 記事には他のことにも触れていますが、それらは省略し、ジェームズ・ジョーンズ海兵隊大将に関する情報を見てみます。彼は昨年退役した海兵隊の高官で、軍歴は非常に豊富です。彼はジョン・P・アビザイド大将(General John P. Abizaid)の後任として、中東地域を担当する中央軍指揮官に就任することを辞退し、ヨーロッパ連合軍司令官の座も辞任しています。ニューヨーカー誌によると、ジョーンズ大将はイラクとヨルダン川西岸で現地の保安部隊の訓練に携わった経験があります。ジョーンズ大将がアビザイド大将の後任になることを避けたのは、イラク戦争に疑問を感じていたためなのかが気になるところです。アビザイド大将に関しては、このサイトでも低く評価してきました。政府の意向に従うだけで、特段の進言をしたとの情報がなく、退役後にぼやきを公言するなど、評価できる業績がないためです。イラク戦争に反対で、イラク軍の訓練を担当したこともあるという経験が、ジョーンズ大将がオバマ政権に必要とされたと考えて良さそうです。

 国内マスコミは、アメリカで新政権が誕生すると常に、極度に悲観的か楽観的な記事を報じるものです。クリントン政権の時も、日本が大変なことに巻き込まれるといった記事が報じられました。これらの記事を真に受ける必要はありません。こういう記事を報じるのが日本のマスコミの癖なのです。それよりも、新政権がどのような政策を行うのかを、冷静に見ていくべきです。


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