アフガン作戦に横たわる補給路の問題

2008.12.11



 米中央軍司令デビッド・ペトラエス大将(Gen. David Petraeus)が、アフガニスタンでのNATO任務のために20,000人の米兵を派遣すると述べたと、military.comが報じました。すでにアフガンには60,000人の兵士がいますが、さらにアメリカが20,000人を追加することになります。一方、パキスタンでは、米軍の補給路に対する攻撃が続いていることをspace-war.comが報じています。

 先日、250人の武装勢力が2つ以上の輸送ターミナルを襲撃し、200台の車両に放火したと報じられていました。その翌日、今度はアフガンに通じるルート上にある別の輸送ターミナルが襲撃され、ジープと輸送トラックを合わせて100台が燃やされました。アフガンで活動する軍の補給物資の80%はパキスタンのカイバル峠(kmzファイル)を通じる一本道を越えて運ばれています。他にも道路はありますが、より悪路で、反政府グループがいる地域を通っています。

 ウズベキスタンからの空路は、2005年に米軍がウズベキスタンのカーシ・カナバッド基地(Karshi-Khanabad air base・kmzファイル)を放棄した時に消滅しました。この年、ウズベキスタンが政情不安定になり、米軍は基地の使用を諦めました。この基地は旧ソ連の空軍基地で、同時多発テロ以降、重要な役割を果たしてきました。今年1月に中央軍司令だったウィリアム・ファロン海軍大将(Admiral William Fallon)が基地の再開のためにウズベキスタンを訪問しましたが、人権問題の壁は厚く、再開には至っていません。これは、2005年5月13日に発生した暴動を、ウズベキスタン政府が過剰な暴力で鎮圧し、ヨーロッパ諸国から批判の声があがったことを指しています。テロリズムから人びとを解放するための戦争が、人権を無視する国家の協力を得るわけにはいかないという分別のため、米軍は撤収したのです。そこで、米軍は他の周辺国に目を向けています。アゼルバイジャンのバクー(Baku)に基地を置き、カスピ海を経てアフガンと友好的なトルクメニスタンを通り、アフガンへ入る補給路が検討されています。トルクメニスタンは永世中立国ですが、独裁国家ですが、2006年にサパルムラト・ニヤゾフ(Suparmurat Niyazov)が死亡してからは、世界に対して門戸を開くようになり、今のところは問題はなさそうなのです。パキスタンからアフガンを通ってトルクメニスタンへ通じるガスパイプラインの建設とアフガンへの鉄道の延長に関して、アフガンとトルクメニスタンは4月に合意しました。しかし、計画が開始されるのは2010年以降とみられます。

 そこで、当面は米軍はパキスタン軍による陸路の警備に依存することになります。最近、パキスタン軍は輸送路警備のために2個大隊を増派しました。それでもトラックの集積場が狙われ、攻撃を受けたのです。

 2個大隊を増やしたところで、線状の道路は警備し切れません。道路を警備するためには、道路に近接し、小銃やRPGなど直接照準兵器の照準線が通る場所から敵を排除する必要があります。重装甲部隊が相手なら、サイズの大きな戦車や装甲車を想定すればよいのですが、小火器しか持たないゲリラを確実に排除するのは、ほとんど不可能です。現在は無人偵察機があり、輸送部隊が通る直前に、通過路の前方を調べることは可能ですが、それでも確実な情報収集は難しいでしょう。アフガンで本格的な軍事活動を行うのなら、アゼルバイジャンからの補給は不可欠です。ただ、カスピ海にはイランも接しており、イランの高速艇による輸送艦の襲撃があるかも知れません。

 私は当初より、イラクよりもアフガンに集中すべきだと考えてきました。それでも、成功が極めて難しいという点も、同時多発テロ直後に考察した時から変わっていません。アフガンの兵数を増やすと、今度は補給の問題が比重を占めます。タリバンの戦闘能力はさほど高くはありません。かつて北部同盟と戦った頃は、突撃に頼るばかりで、戦力の集中は下手だといわれていました。今は少しは上手くなったかも知れません。しかし、多くの人が誤解しているのですが、小火器による戦闘は精鋭の兵士でなくてもかなりの戦力を発揮するものなのです。逆に、高い教育を施して要請した精鋭の兵士も、さほど練度の高くない平均的な兵士に手こずるものなのです。現に、アフガンで戦った米特殊部隊の兵士が、アルカイダの方が戦術が上手だったと述べたことがあります。これは到底信じがたいことですが、状況によってはそのような格差が生まれることがあるのです。だからこそ、米軍は歩兵部隊を支援する間接砲撃や空爆を重視しています。歩兵部隊の役割は敵を撃破することではなく、釘付けにして砲爆撃を要請することです。強力な砲爆撃で敵を制圧し、歩兵はそれから進撃するのです。だから、タリバンは正面対決を避け、弱点を見つけると兵を集めて襲撃して退散する戦術を繰り返します。さらに補給路も脅かし、地道に敵の出血を強いるのです。そこで、アメリカはイラクからできるだけ手を引き、アフガンに戦力を集中することになるわけです。でも、アメリカがアフガンで泥沼に巻き込まれた時、イラクが再び政情不安定になるという最悪のシナリオも考えられます。その時、アメリカがどうするのか。アメリカが日本に何を要求してくるのかについて、日本政府は何を考えているのでしょうか。


Copyright 2006 Akishige Tanaka all rights reserved.