ロシア原潜の事故で20人が死亡

2008.11.9
同日 22:35追加



 本日、ロシア原潜が事故を起こし、20人以上が死亡するという、とても珍しい事故が起こりました。ワシントン・ポストで事件の概要を見てみました。

 事故の原因は消火装置が誤動作したことですが、何が消火装置を起動したのか、犠牲者の死因などは明らかにされていません。ロシアの原潜の消火装置は、通常、発泡剤と化学剤を用いています。事故は潜水艦の船首で起こり、原子力エンジンに問題張りません。潜水艦の名前は明らかではありませんが、匿名の造船所筋によれば、艦名はネルパ(Nerpa)です。艦はコムソモリスク・ナ・アムーレ市(Komsomol'sk-na-Amur)にあるアムール造船所(the Amur Shipbuilding Factory/kmzファイルはこちら)で建造されました。日本海で最初のテスト航海中に事故が起こりました。テストは先月からはじめられており、先週、最初の水中航行を行いました(SPACE-TVによれば、ネルパがテスト航海に出たのは10月29日)。この事故で21人が負傷しましたが、その程度は不明です。

 この艦がネルパだとすれば、艦番号「K-152」のアクラ級攻撃型原潜です。アクラ級はコストを重視する艦で、性能はそれほど高くありません。ネルパは1991年から建造が始まり、資金難から完成が危ぶまれていたのですが、ようやく完成し、テスト航海に出た途端に壊れたというわけです(人為的な事件の可能性も捨てられませんが)。ネルパはインド海軍にリースされると信じられていますが、ロシアは否定しています。

 NHKニュースは、造船所の責任者の話として、「乗組員は消火剤による中毒症状を起こした」と報じていますが、中毒を起こすような物質を密閉された空間で使う消化剤に用いるとは考えにくく、正しい答えではないように思われました。消火剤に使われるガスには、ハロン、窒素、アルゴン、二酸化炭素などがありますが、ハロン、窒素、アルゴンは無害です。二酸化炭素は火を消せる濃度で、中毒を起こして人名を奪う恐れがあるといわれています。1995年12月、東京都豊島区の立体駐車場で、 二酸化炭素消火施設の誤作動で、2名が死亡、1人が重体になった事件がありました。また、消火までに時間がかかるという欠点もあります。ハロンはフロン系の物質で、オゾン層破壊の観点から、最近は使用が減っていますが、ロシアはまだ使っているのかも知れません。時事通信がフロンガスが死因と報じていますが、これも考えにくいことです。フロンの中には毒性が強いものがありますが、消火剤には安全なものが使われます。

 以上を考えると、本当に消火剤による事故なのかは疑問が残ります。ガスによる中毒だとしても、何か別のガスだった可能性もあります。続報に注意が必要です。


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