ミサイル防衛の長はオバマ氏を説得できるか?

2008.11.17



 space-war.comによれば、アメリカのミサイル防衛の責任者テリー・オバリング中将(Lieutenant General Trey Obering)が、ミサイル防衛は機能すると主唱しました。

 オバリング中将は、迎撃ミサイルのテストは銃弾で銃弾を撃てることを証明しただけでなく、銃弾の上の一点を銃弾で撃つことができる、と述べました。バラック・オバマ次期大統領は、技術が機能することが証明されたら、ミサイル防衛の配備に賛成するという立場を取り続けています。オバマ氏はまもなく国防総省を訪問する予定で、オバリング中将はオバマ氏にチェコスロバキアへのレーダー設備の配備を促したいようです。チェコは2011〜2013年にミサイル防衛に使われるレーダー設備がアメリカによって配備される予定ですが、チェコ議会は批准の最終的議決をオバマ大統領の就任まで延期しています。オバリング中将は、自分たちの主目標は自分たちが成し遂げたことをオバマ氏一行に教えることで、数年間、この問題に関与してこなかった人たちは、最新情報を与えられなければいけない、我々はイランがICBMを飛ばすまで待つことはできない、と述べました。

 オバリング中将が言う「銃弾で銃弾を撃つ」とは、敵の弾道ミサイルを迎撃ミサイルなどで破壊することです。現在のところ、なんとか命中させるのがやっとで、「銃弾の上の一点を銃弾で撃つ」のは無理です。すると、これはエアボーンレーザーで迎撃ミサイルが低高度にいる内に、レーザー光線で機能の一部を破壊し、ミサイルを墜落させることを指しているのだと解せます。もともと、迎撃ミサイルで弾頭の一点を撃つ必要はありません。大気のない場所では、爆薬を爆発させても効力がないため、迎撃ミサイルの弾頭をICBMの弾頭に直接ぶつけて破壊する方法が用いられるのです。しかし、銃弾の上の一点を銃弾で撃つエアボーンレーザーは、開発の遅れにより米議会の信頼を失い、予算不足で完成が危ぶまれています。

 オバリング中将の役目は、これらのよくない情報をかき集めて、オバマ氏を説得し、ミサイル防衛の推進になびかせることです。「自分たちの主目標は自分たちが成し遂げたことをオバマ氏一行に教える」という発言の「教える」に「educate」という単語が使われているところに、オバリング中将の意図が見えています。これは、さも親切そうに説明している振りをしながら、相手が反論できないように取り込むことを意味しています。米軍の将官は大統領の防衛に関するアドバイスも行いますが、場合によっては、自分たちの椅子を守るための情報操作も行います。特に、ハイテク兵器の多い軍、空軍などに、その傾向が顕著です。ミサイル防衛局はその最たるものと言えます。実は、この段階から、次期大統領府と米軍の駆け引きが始まるのです。オバリング中将は、すでにマイクロソフト社のパワーポイントで作ったプレゼンテーションを完成させ、入念な準備を済ませているでしょう。オバマ氏の側近たちは、当然ながら、こうしたミサイル防衛局の狙いを理解しており、どういう対応をすればよいかをアドバイスしているでしょう。

 第二次大戦後、核時代が現実のものになると、すぐに防衛産業は肥大化しはじめました。戦争が終わると、アメリカだけがスーパーパワーを持っている時代が生まれました。核戦略という新しく、未知の分野で使われる、様々な装備品を開発・製造する企業が必要になったのです。冷戦が終わった時にも、アメリカだけがスーパーパワーを持っているという状況になりましたが、前回とは異なり、民間軍事会社という新しい分野が誕生しました。こうした戦後の、武器産業界の動きを辿ってみると、ミサイル防衛の実状が別の面から見えてきます。ミサイル防衛について勉強する時、ミサイル防衛の本だけを読むのではなく、過去の武器開発の本を調べてみるのがよいでしょう。ミサイル防衛の本は多くの場合、オバリング中将のように、ミサイル防衛の専門家が書きます。だから、読者はオバリング中将がオバマ氏にしようとしていることと同じことをされるだけなのです。

 先に核戦略が未知の分野だと書いたのは、通常兵器が使われた場合の影響については、過去の実例をフィードバックできるのに比べ、核戦争は広島市と長崎市の投下事例が2件あるだけで、分からない部分が多いという意味です。広島市と長崎市は、核戦争の被害について教えていますが、政治的な影響については何も教えていません。原爆投下の前にすでに日本は降伏を決定しており、政治的な影響の実例とは成り得ないからです。原爆を投下された相手がどういう反応を示すのかは、通常兵器だけを用いた戦争の場合と比べると、遙かに不透明です。

 核戦略は闇の中で剣を振るのに似ています。我々はこの分野について、知ったようなことを口にしてはいけないのだと考えるべきです。


Copyright 2006 Akishige Tanaka all rights reserved.