田母神元空幕長が国会で証言

2008.11.12



 田母神俊雄元航空幕僚長が参議院外交防衛委員会に参考人招致され、田母神氏は自説を正しいと主張しました。また、自民党の国防関係合同部会で、田母神氏を擁護する意見が続出したと報じられています。

 彼らは、第2時世界大戦がコミンテルンに操られた中国とアメリカによって仕掛けられた罠だったと主張します。しかし、対テロ戦争でアメリカなどの多国籍軍を支援することに賛成しています。これは明白な矛盾です。アメリカが共産主義者にそそのかされて、大統領自らが日本に真珠湾を攻撃させたと言う自衛隊の指揮官を、米軍が信頼して共同行動を行いたいと考えるかは疑問です。アメリカの軍人にとって、田母神氏の主張が馬鹿げているとしか見えないことは、私がトピックを立てたmilitary.comの掲示板を見れば分かります。

 参考人としての発言を聞いても、更迭されて当然の人物だったとしか思えませんでした。自由主義史観を隊員に奨励するような人は、自衛隊の指揮官として失格です。自由主義史観は社会学として十分な立場を持っておらず、将来においても、主流となるとは考えられません。戦史研究ならともかく、一部の思想関係雑誌しか受け付けないような懸賞論文を隊員に奨励することは、明らかに偏向しています。むしろ、自衛官に必要なのは戦史研究であり、色々な視点から戦争を研究して欲しいと考えます。ところが、田母神氏は精神訓話みたいな国家論を展開し、証言でも次のように述べました。(出典はこちら

はい。日本の国をですね、やっぱりわれわれがいい国だと思わなければですね、頑張る気になれませんね。悪い国だ悪い国だと言ったんでは自衛隊の人もどんどん崩れますし、そういうきちっとした国家観、歴史観なりをですね、持たせなければ国は守れない、と思いまして私がこの講座を設けました。

 これは、田母神氏が統幕学校で国家観をテーマにした講座を設けたことに関する質問に対する彼の答えです。この発言から判断すると、自衛官の士気が落ちるから、日本は侵略国ではないという認識を持ってもらうために講座を設けたと解せますし、懸賞論文もその延長線上に位置するものということになります。こうした田母神氏の発想は到底受け入れられません。よい話ばかりを聞かされて、疑問を持たなくなった国民や自衛官ばかりになることの方が問題です。

 自由主義史観にかかわらず、特定の思想に入れ込むのは、人生の浪費にしかならないことを知るべきです。完璧な思想など、どこにも存在しません。自由主義史観に熱中する人は共産主義にも熱中する素質を持っています。どちらも真実に見えるという点では共通しているからです。

 国家観を持たなくても、自衛官の仕事はできますし、一つの思想に凝り固まらないので、よりよい仕事ができるかも知れません。私はむしろ、国家観を持たない自衛官をより高く評価したいと考えます。国家観のレベルで、国防の能力が高まるという根拠は、戦史に照らして、どこにもありません。戦争はいわば「上手く行かないことのコレクション」です。このように極限までに混乱した状態を解析し、勝利を導くのが自衛官の仕事とすれば、気分がよくなるような国家観を聞けないと士気が高まらないような人は、その任務に向いていないと思うのです。そういう人は、上手く行かないことが積み重なると耐えられなくなり、どこかに逃げていくと考えられます。

 田母神氏は「自衛官にも表現の自由がある」とも主張しました。仮に、ある自衛官が共産主義を支持する懸賞論文に応募したら、田母神氏が表現の自由を根拠にして支持するでしょうか。そんなことは誰も信じません。表現の自由は自説を強弁することではありませんし、軍隊で隊員が表現の自由を主張すると、その業務は著しく阻害されるので、軍隊では基本的な個人の権利を制限しています。田母神氏がこれとは正反対のことを言うのには、何か理由があるのでしょう。しかし、田母神氏が引用したYahoo!の調査結果によれば、むしろ彼を支持する声の方が多いのです。疑問を持たない人たちがいかに多いかということです。


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