原潜「ネルパ」死亡事故の続報

2008.11.11



 spacewar.comが事故を起こした原潜ネルパの続報を報じています。ネルパは、ウラジオストク(kmzファイルはこちら)から約35km東にあるボリショイ・カーメニ(Bolshoi Kamen・kmzファイルはこちら)に帰還しました(記事に100kmと書いてあるのは誤りです)。

 この記事に、興味深い記述がいくつかあります。

 まず、ガスが放出される前に火災警報が発せられたことが明らかになりました。それにも関わらず、大勢の乗員が現場から脱出できずに死傷したことになります。なぜそうなったのかは想像もできません。大勢が一斉に出口に向かったために将棋倒しになり、被害を拡げたのかも知れません。

 記事は、放出されたガスについて「有毒なフロンガス(toxic freon gas)」と書いていますが、詳細については何も説明していません。フロンガスには有毒な物もありますが、一般的に消火設備には無害な物が使われます。その一方で、ロシア高官の言として、事故が起きた場所の酸素は欠乏していたとも書いています。記者は、これらの情報の矛盾について何も指摘しておらず、明らかに酸素欠乏症と中毒症を混同しています。酸素欠乏の場合、ガスが酸素を押しやることで希釈されて起こる場合が多いのです。ガス自体が有毒な場合、ガスの毒性で中毒症状が起こります。有毒なガスが大量に放出され、酸素欠乏と中毒が同時に起きた可能性もありますが、そうだと書かれた記事は今のところ報じられていません。以上から、記者がはっきりとした認識なしにフロンガスを有毒を書いた可能性を否定できません。というわけで、事件の詳細は未だ不明と判断すべきです。

 酸素欠乏による死亡は酸素濃度が6%程度にならないと起こりません。潜水艦という密閉された空間で使用される消火装置が、安全性に配慮しないで製造されるとは考えにくく、その原因は想像しがたいものがあります。一般的にはガスを使う消火装置は、ガスボンベから各所にパイプが伸びていて、放出すべきパイプのバルブが、非常ボタンを押すことで開けられて、必要量だけが放出されます。ハロンなどを使うガス式消火装置は初期消火用で、それでも沈下しなかった場合に備えて、消火ホースが各所に用意されています。これで発泡剤の消火剤を撒いて、火を消すのです。つまり、ガス式消火装置は完全に火を消せなくてもよく、ガスによる二次災害を起こすことがないように設計されます。今回の事故では、火災が起きていないのに装置が作動したことが第一のエラーです。これにはシステムエラーとヒューマンエラーの両方が考えられます。そして、二次災害を引き起こすような動作が行われたことが第二のエラーです。なぜこんなエラーが起きたのか。そこに焦点が絞られなければなりません。

 それから、記事はロシア政府から死者の家族に対して3,700ドルが支払われると書いています。随分と少ない金額ですが、まだ原因が分からない段階ですから、見舞金のようなものでしょう。今後、調査が完了した時点で、さらに補償金が支払われることになるのでしょう。


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