米軍はどれだけ石油を消費しているか?

2008.10.21



 石油価格の高騰により、米軍が燃料の節約に励んでいるという記事がmilitary.comに載りました。この記事に書かれているデータは、米軍の燃料コストについて格好の資料となっています。

 日本の軍事書には、この種のデータが載ることはほとんどありません。兵器にしか興味のない軍事オタクはともかくも、本気で軍事を考える者にとって、これらのデータを頭に入れておくことは重要です。軍のコストについて、ざっとした数字を知っていることは、とても重要なのです。

 最近まで横須賀を母港にし、来月退役を迎える通常型空母キティホークが1年間にどれくらい消費しているか知っていますか?。約70万バレル(111,300キロリットル)。海軍の年間燃料消費量の約2%です。

 米軍は年間1億3000万バレルの石油を購入しており、これはスウェーデンの年間消費量に匹敵します。米軍の燃料の半分を購入している空軍は飛行時間を10%削減しようとしています。空軍の次に燃料を消費する海軍は、多くの艦船のの船底に金属製のフラップを取り付けています。これは2007年会計年度に1,150万ドルの燃料費を節約します。海兵隊は1999〜2007年に1050万ガロンの燃料を26%節約し、770万ガロンに抑えました。陸軍は取材を拒否したので、この記事では触れられていません。

 海軍は1隻あたり26万ドルをかけてフラップを取り付け、水に対する船の抵抗を減らそうとしています。さらに、船体のクリーニングも強化します。これらの努力により、年間5千5百万ドル、燃料消費量の1%を節約しようとしています。海兵隊はそれほど燃料を使いませんが、1999〜2007年に、トラック、一般自動車、フォークリフトの消費量を26%抑えました。電気自動車の導入も貢献しています。

 空軍は飛行時間を10%減らしていますが、任務に大きな支障は出ていないとしています。2003年に30億ガロンだった燃料消費量は2007年の25億ガロンまで削減されました。しかし、2005年に1ガロン1.74ドルだったジェット燃料は今年夏に4.07ドルに上昇しました。結果として、2003年に26億ドルだったのが、2007年には56億ドルまで、115%も上昇しました。2011年に空軍は合成燃料の使用を開始する予定です。合成燃料は石油ベースのJP-8に、液化石油や天然ガスから作った燃料を1対1の割合で混合したものです(過去の記事はこちら)。2016年までには燃料の半分を合成燃料にしようとしています。

 2002年にアフガニスタン戦が始まり、翌年にイラク戦がはじまると、米軍の年間燃料消費量は1億1000万バレルから、1億3000万バレルに跳ね上がりました。米軍はアメリカ全体の燃料消費の2%を占めます。

 防衛電子機器供給センター(Defense Electronics Supply Center: DESC)は、世界中から様々な価格で大量に石油を買い、それに8〜9%を上乗せして米軍に販売します。着実な燃料供給と予算のために、DESCは年に1度、石油価格を設定します。2005年以降は、1年の間に価格が再調整されています。最後の会計年度では、10月に価格をつけた後、12月と7月に再調整が行われました。このため、民生用の石油価格は下がっているのに、軍はまだ高い石油を買い続けています。そこで、米軍は燃料の節約に励んでいるのです。

 これらの数字は常に頭に入れておくとよいでしょう。軍がどれくらい石油を使い、どのように調達しているのかを知るのは重要です。つまり、どの程度の軍事活動をすると、どれくらい金がかかるのかを、ざっくりとしたところで頭に入れておくわけです。

 それにしても、石油のために始めた戦争で、石油の節約に励むという皮肉も感じます。


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