「ウォームービー・ガイド」の裏話

2008.1.28



 来月発売の拙著「ウォームービー・ガイド」について、ちょっと書きます。

 この本を書くにあたり、本には掲載しなかった作品も含め、様々な作品をDVDで集めました。DVD版がないために、VHS版を求めた作品もありました。そして、何度も観賞して、テーマを考えました。その結果、戦争に関する基礎知識を戦争映画を使って学ぶ本にするというコンセプトに落ち着きました。

 普通、この手の本はできるだけ多くの作品を掲載するものですが、そうすると必然的にひとつの作品に対する解説は減少します。カタログのような本ならこれまでに何冊かありますし、そういう本は一部のマニアにしか読まれません。自分としては、できるだけ多くの人が読める本にしたかったので、カタログ本は選択肢から外れました。

 戦争のどんなことを説明するのか。この問題を考えた時に、やはり地上戦を中心にした方がよいのは明白でした。戦争の多くの部分は陸上で起こります。海軍や空軍も重要ですが、これらの話をすると、ほとんどが機械、つまり兵器の話にしかならないのです。これは戦争という問題を説明するためには中心的部分とは言えません。戦争をするのは人間で、そこに目を向けるべきです。また、武器に関する本なら、他にいくらでもあります。そこで、必要がない限りは触れないことにしました。

 さらに、テーマを決め、それを説明するのに最適な作品を選びました。「地獄の黙示録」のような名作を除外したのは、この作品がこうした方針に合致しなかったためです。小説「闇の奥」を原作とするこの作品は、どう考えても文芸作であり、これを解説しようとすれば、別に相応しい場所が必要です。このように、涙をのんで除外した作品は他にもあります。また、レンタルビデオ店などで、誰もが容易に借りられる作品を優先しました。中にはこの条件に合致しない作品も掲載していますが、そうした作品はどうしても取り上げたかったというのが理由があります。

 地上戦について解説するために、「プライベート・ライアン」「プラトーン」という名作を活用しています。この二作品だけは、全編をチャプター別に詳しく解説し、地上戦の概要をつかんでもらうようにしました。それ以外の作品も、切り口はそれぞれ違います。中には、作品の中の一部しか解説しなかった作品もあります。

 結果として、意識しなかったものの、いくつかの傾向が表れました。特定の監督、俳優の作品が重複して登場することになったのです。監督では、スタンリー・キューブリック、オリバー・ストーン、エドワード・ズウィック。俳優では、デンゼル・ワシントンとメグ・ライアンです。確かに、私はストーン監督の演出力を高く評価していますが、そのために選んだわけではありません。それなら、敬愛する黒澤明監督の「七人の侍」を選びたいところです。それでも、こうした傾向が生まれたのには何かの理由があるのかも知れません。おそらく、取り上げた作品は戦争をできるだけ具体的に表現しており、そうした監督の意向に合致する俳優たちが存在するということなのでしょう。

 また、冒頭には導入部として戦争に関する概論を掲載しました。最後の章では、字幕や吹き替えの問題を取り上げました。これらは人によってはサイドメニューのようなものでしょうし、別の人には有益な情報となるでしょう。

 本書は、当初、もっと多くのページ数がありました。しかし、五百ページを越えると装丁が難しくなるため、差し支えのない部分を削除してまとめ上げたのです。

 この本が必要とする人たちの手に届き、活用されることを願うのみです。


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