ボート接近事件におけるイランの狙い

2008.1.14



 イランの小型ボートによる妨害活動について、非常に有益な情報が出てきました。military.comが統合参謀本部議長のマイク・マレン海軍大将(Adm. Mike Mullen)が、イランが正規軍から革命防衛隊の小型高速ボートをより多く使うようになったと発言したことを報じました。

 マレン大将によれば、これはここ数年間の変化で、米軍はそれに注意を向けていたということです。つまり、イラン侵攻後に、革命防衛隊はホルムズ海峡で小型ボートで活発に活動するようになったということです。当然、この背景にはイラン政府の思惑があります。イラン政府はホルムズ海峡を不安定化することで、アメリカを牽制したいのです。最近、イラク国内でのテロ事件が減っており、アメリカがそれによって勝利宣言するような事態をイランは避けたいのかも知れません。いくらイラクが安定しても、ホルムズ海峡が危ういのでは、アメリカは政治的目的を達成できるとはいえません。そこで、革命防衛隊による活動を開始したと考えるのは、いくつか想定できる推論のひとつです。かといって、直ちに武力紛争に持ち込むつもりも、イラン政府にはないでしょう。今回のような挑発行為は、米艦が本気になれば木っ端みじんになり、成功する見込みなどひとつもないからです。特攻は、夜間であっても、レーダーやコンピュータ制御の武器が発達した現在は成功する可能性はありません。あくまでも、米艦が発砲しない範囲での挑発です。しかし、そういう雰囲気を演出することは、政治的にはそれなりの成功を収めるのです。米艦が攻撃できるのなら、石油タンカーも攻撃できます。かといって、石油タンカーに向けて挑発行為を行うのは都合が悪いのです。直ちに、海賊行為の類と批判されてしまいます。米軍艦を狙ったことで、アメリカの中東戦略が上手く行っていないという宣伝効果だけを得ることができるのです。

 ここから先は情報戦の世界です。昨年12月の接近事件は、米軍にとっては都合が悪いことだったので、米軍は公開しませんでした。ホルムズ海峡でもめ事となれば、ブッシュ政権はさらに批判にさらされます。今回はビデオ映像が報じられ、ニュースで何度も報じられたことで、事件を公にできました。これはイランの狙いがあたったことを意味します。つまり、12月の事件の意趣返しではなく、あの事件もイランが計画的に行ったものだという推測が、この記事から成り立つということなのです。


Copyright 2006 Akishige Tanaka all rights reserved.