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NYタイムズ、自衛隊の変容を報じる

2007.7.25



 泥さんから情報提供があったので、その記事に関して書きます。日本の防衛態勢が大幅に変化しつつあるという記事「Bomb by Bomb, Japan Sheds Military Restraints」をニューヨーク・タイムスが掲載しました。記事を書いたのはオオニシ・ノリミツという人で、名前を見た限りでは日本人のようです。興味深い記事ですが、まだ手が痛いので要旨だけ書きます(トップページのコラムを参照のこと)。要旨といっても、かなりの量になりました。


  • サイパン島の北にある小島ファラロン・デ・メディニリア(Farallon de Medinilla)の米軍射爆場で、航空自衛隊が米軍との年間訓練で実弾を使って500ポンド爆弾を投下する訓練をした。

  • こうした訓練は他の軍隊では珍しくないが、日本では大きな意味を持つ。日本の憲法は戦争を放棄し、武力は自衛のためだけに許されている。爆弾投下は攻撃的すぎるとみなされるので、日本は実弾用の射爆場を持っていない。

  • 日本から直接飛んで、遠隔地の外国の領土を爆撃したことは、北朝鮮まで飛んで目標を爆撃し、帰投する能力を持つことを暗示している。

  • 日本は急速に「できないこと」のリストから項目を外すようになった。特に9/11以降、第2次大戦後の日本の軍事力は大きく変化し、米軍により近くなっている。

  • 約5年間で日本の軍事力はかつて考えられないほど変化した。日本の護衛艦と燃料補給船はインド洋上で米軍やその他の艦船へ補給を行っている。航空自衛隊機はクウェートとバグダッド間で貨物や兵員を輸送している。

  • 日本は武器購入において防衛と攻撃の境界線を曖昧にしてきている。爆撃訓練に使ったF-2戦闘機は北日本からグアムまで1,700マイルを無着陸で飛行できる。最近、日本はアメリカが輸出を禁止しているF-22「ラプター」を購入したいという強い願望を示した。

  • 立場が弱かった防衛庁は今年、完全な省に昇格した。安倍総理は平和憲法を改正に導く法律を強引に成立させるために、小泉純一郎から引き継いだ人気を利用した。

  • 241,000人の自衛隊は、隣国よりは小さいもののアジアで最も洗練されている。400億ドルの予算は世界で5番目である。日本は情報衛星を打ち上げ、海上保安庁を強化するために非軍事的予算を利用し始めた。
  • 安倍のような日本の政治家は北朝鮮と中国の脅威によって軍事力の転換を正当化した。安倍総理は従軍慰安婦を含む旧日本軍の犯罪をごまかすことで、その評価を回復しようとした。

  • 日本の批評家は、大衆の目から隠されている進行中の変化(特にイラク派遣)はすでに憲法の制約を破ったと主張する。野党民主党の鳩山由紀夫は「現実はすでに先へ進んでいるので、彼らはいま追随し、憲法を修正する必要を口にするのだろう」と述べた。

  • マサチューセッツ工科大学のリチャード・J・サミュエルズは「安倍や小泉のような修正主義者の政治家はかつて日本の政界の外縁にいたが、主流をつかむことに成功した」と言う。彼らは、太平洋戦争中の日本の不法行為は出訴期限法により失効していること、日本は普通の国と同じように軍隊を持つべきだという主張を共有している。彼らの前任者はアメリカが主導する戦争に巻き込まれることを恐れたが、彼らはその戦争に貢献しないことで、アメリカに見捨てられることを恐れる。(サミュエルズは8月に「Securing Japan」を出版する予定)

  • 日本はミサイル防衛構想を開発し、資金を調達するアジアで最大のパートナーである。陸・空自衛隊の指揮所のいくつかが、軍の用語で言う「相互運用」のために米軍基地内へ移転した。元防衛庁長官の石破茂は「私は日米の安全保障関係はできるだけ統合されるべきで、我々の役割の相違は明確にされる必要があると考える」と言う。

  • 特措法に従って、象徴的な地上軍がイラク南部の友好的で戦闘のない地域に復興支援のために派遣された。昨年、部隊は引き揚げたが、3機の日本機が米軍の兵士と貨物をクウェートからバグダッドへ輸送し始めた。日本政府は、この輸送機が武器を輸送したかどうかを公表することを拒否している。自衛隊がイラク派遣に批判的な活動家やジャーナリストを秘かに調査したことが、共産党によって明らかにされた。

  • 民主党の鳩山は、武装した米兵を輸送することは平和憲法に違反したと主張する。人道支援に携わる代わりに、自衛隊は基本的に米軍を支援している。米軍と航空自衛隊はグアムで一緒に訓練するのと同じく、一つになって動いている」。安倍は、自衛隊は非戦闘地域に制限され、どの軍とも合同指揮の下で活動していないので、憲法には違反していないと主張する。

  • 日本は原子力潜水艦、長距離ミサイル、大型航空母艦を持っておらず、武力を遠方で行使する能力に欠ける。しかし、ボーイング767の空中給油機2機、ヘリコプターや垂直離着陸機能を持つ航空機を搭載する航空母艦2隻を購入しようとしている。

  • 米軍は変化を歓迎した。しかし、韓国は日本がF-22を購入しようとしていることに反発している。韓国の盧武鉉大統領は韓国で最初のイージス艦の進水式で「北東アジアはいまだに軍拡競争をしており、我々は落ち着けない」と述べた。元防衛長官の石破は、この地域にある不信は日米同盟により抑えられると述べたが、戦時中の出来事を受け容れた日本の不能が武力を遠方で行使する能力を制限していると認めた。「なぜ我々がその戦争を避けることができなかったかや、日本がアジアにしたことを理解しないのは、我々が遠方で武力を行使する能力を持った場合に危険になり得る」。

 この記事は全体として、最近の日本の防衛態勢の変化をまとめた記事と言えますが、気になる記述も見受けられます。

 F-2戦闘機が参加したのは初めてとはいえ、実弾の爆弾投下訓練は2005年から行われているはずです。元々、模擬弾で訓練していたのが、海外の訓練場を借りているとはいえ、ようやく実弾でできるようになったのであり、F-2戦闘機が参加したのは単に時期的な偶然に過ぎません。

 日本国憲法が攻撃的な軍事活動を禁じているというのは、アメリカで書かれる文章によく見られる間違いです。日本人なら誰でも、憲法が禁じているのが「軍隊の保持」であり、そのために戦後、神学的な論争が繰り返されてきたことを知っています。このことがアメリカではほとんど理解されていません。日本語では「自衛隊」と書けば「軍」にはならないという言い抜けができます。「警察予備隊」「保安隊」と、新日本軍は「軍」という表現を避けてきました。英語では「隊」と「軍」を日本語を同じように使い分ける術がなく、「troop」や「force」は軍隊を指すだけでなく、警察組織をも意味します。アメリカでは沿岸警備隊すら有事には連邦軍に編入するので、こうした境界線はほとんどありません。「海上保安庁を強化するために非軍事的予算を利用」という記述はここから出ています。アメリカ人が「Japan Self-Defense Forces」が憲法に違反すると気がつきにくいのは、多分これが原因です。なぜそうなのかをもっと詳しく知りたければ、アメリカの建軍について調べてみるとよいでしょう。このことは単なる言葉の問題ではなく、日米の安全保障を考える上で見落としやすい点でもあります。日本は軍事力ではないと考えることを、アメリカはそうだと考えるわけですから、どこで認識のズレが生じてもおかしくありません。

 同種のことは、防衛庁の防衛省への昇格についても言えるかもしれません。以前に、アメリカ人に宛てた電子メールに「the defense agency」と書いたら「日米どちらのか?」という質問が返ってきたことがあります。国防総省は「the department of defense」だから混乱することはないと思い込んでいたのが間違いでした。この記事では簡単にしか説明していませんが、「庁」と「省」の違いはアメリカの専門家でも余り理解していないでしょう。

 サマワの部隊が引き揚げたあとに航空自衛隊が輸送活動を始めたかのような記述がありますが、実際には陸自と空自はほとんど同時期に活動を始めています。陸自がいる間は陸自の物資を輸送しながら他の物資を輸送していましたが、撤退後は完全に米軍その他の輸送に携わりました。そのことを説明しているつもりなのだろうと思いますが、アメリカの視点からしか見ていない感じです。

 とはいえ、最近の日本の変化については概ねその通りと思えることが書いてあります。しかし、アメリカが日本が再び軍事大国になることを警戒する心理も感じられます。日本の外務省はアメリカを「価値観を共有する国」とみなしていますが、日本はいまでもアメリカからは理解しがたい国です。何を考えているかが分からないから浮かび上がってきた事実をつないでイメージを描いてみているのです。こうした推測が往々にして誤っているものです。以前、中国の原潜が故障して日本の領海内を突っ切ろうとしたことがありました。その時に知人が血相を変えて「これは穏やかじゃない!」と私に噛みつき、困ったことがありました。彼は中国が意図的に日本の主権を侵害したと思い込んだらしく、私は「穏やかでないのは、あんただ」と言ってあげたのですが、彼はまったく収まりませんでした。アメリカの懸念も、これと似たような無知から生まれていると言えます。アメリカにとって日本は、よく分からない危険な国だけど、ポップ・カルチャーを提供してくれる国という程度の認識しかないのかという気がします。もっとも、日本の戦後の防衛政策には分からない部分が多く、これは海外から見ていれば余計に分からないだろうという気はします。

 それはともかく、そんな国から見捨てられるのが恐いから自衛隊を外交の道具として使うという小泉・安倍の政策は、私には理解できません。特に、安倍総理の「戦後レジームからの脱却」のための改憲には大きな矛盾を感じます。改憲しても対米追従を続けるのなら戦後レジームからいつまで経っても脱却できないからです。ここに小泉・安倍世代の政治家の限界があると思います。次なる世代がこの誤りを正す責を負っているのです。

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