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石破大臣の答弁は“常套句の使い古し”

2007.10.6
2007.10.7 訂正



 今日の国会審議で、石破茂防衛大臣が給油新法に関して答弁を行いました。しかし、その内容はテロの拡散防止とシーラインの防衛という、まったく異なる事柄を混合した未整理の内容に過ぎず、失望させられました。

 元々、アフガニスタン作戦を支援するテロ特措法は、アルカイダを放置することで世界各地に拡散し、各国にアルカイダの協力組織ができることを防ぐという目的がありました。テロの拡散は、シーレーンへの攻撃という洋上テロの発生へとすり替えられ、それを防ぐことに給油新法の目的があるとされたのです。そこには、中東から輸送される原油を人質にした、自民党の恫喝的な論法があります。しかし、これはまったくナンセンスな議論であり、軍事上の議論から乖離しています。

 高速が出る小型船に爆弾を積み、タンカーに接近して自爆するテロ攻撃は、成功の見込みがなく、効果も薄いので、実施されにくいだろうと考えられます。中東問題をテーマとした映画「シリアナ」に類似する場面がありますが、これは港湾に停泊する船を狙っています。小型船の航続距離からいって、航行中のタンカーを遠洋で待ち伏せするのは難しく、成功したとしても1隻を沈めるだけで終わるからです。タンカーを首尾よく捕捉できなかった場合、船は港へ戻らなければならず、無駄足になるだけでなく、逮捕される危険を増します。その点、港湾に停泊する船を攻撃すれば、成功がより確実であり、港湾施設にも被害を与えられる可能性があります。2004年4月24日、日本郵船の石油タンカー「高鈴」が、自爆攻撃を受けて損傷した事件がありますが、これもやはり船ではなく、港湾施設を狙ったテロ事件でした。「高鈴」はたまたま近くに停泊していたので被害を受けたのです。

 この事件の報道では、多国籍軍の艦艇が、ターミナルに接近中の不審な高速ボート3隻を発見して銃撃戦になり、うち1隻の高速ボートが「高鈴」の手前数百メートルで大爆発を起こしたことになっています。この文章は、猛スピードで接近する3隻の高速船を多国籍軍が追跡するという、緊迫感ある光景を連想させます。しかし、これは事実とかなり異なります。

 シンクタンクGlobalSecurityの殉職者リストから、戦死者を調べると、マイケル・J・ペルナセリ一等海曹(Petty Officer 1st Class Michael J. Pernaselli)、クリストファー・E・ワッツ二等海曹(Petty Officer 2nd Class Christopher E. Watts)、ネイサン・B・ブルッケンザル三等海曹(Petty Officer 3rd Class Nathan B. Bruckenthal)の3名が犠牲になったことが分かります。さらに、死因の欄をクリックすると、米中央軍発表の事件の詳細が読めます。

 それによれば、多国籍軍が、ホール・アルアマヤ石油ターミナル(the Khawr Al Amaya Oil Terminal)に接近するダウ船1隻を発見し、標準洋上阻止作戦(MIO)に従い、隊員をダウ船に乗船させようとしました。8名の隊員が乗った硬質ゴムボート(RHIB)が接近すると、ダウ船が爆発しました。それにより、ゴムボートがひっくり返り、隊員を海に投げ出しました。その結果、2名が死亡し、4名が負傷しました。この爆発から20分後、アルバスラ石油ターミナル(the Al Basrah Oil Terminal)に接近する2隻の小さなボートが発見され、同ターミナルの保安部隊が迎撃し、ボートはターミナルに着く前に爆発しました。

 狙われたターミナルは1カ所ではなく2カ所。テロリストが使ったのは高速ボート3隻ではなく、ダウ船1隻。ダウ船は帆掛け船であり、高速は出せません。停戦させるための威嚇または威力射撃はあったと考えられますが、双方が撃ち合う銃撃戦があったかどうかは不明。911テロ事件は、大規模なテロ事件のイメージを私たちに植え付けました。それがこうした不正確な報道を誘発するのです。

 この事件を根拠に給油新法を肯定することはできません。言うまでもなく、港湾を警護する船は、その港で給油しているからです。シーラインを守れという議論は過去から繰り返されてきました。神浦元彰氏の「日本の最も危険な日」にも、国籍不明の潜水艦がタンカーを攻撃するという議論が存在することが書かれています。この本は1979年に出版されているので、これ以前からシーラインを守る話が存在しているわけです。なお、この本には、第7艦隊にペルシャ湾から日本までのシーラインを守る能力はない、という米海軍による見解が示されており、そもそもシーラインを海軍で守るという発想そのものがナンセンスだと書かれています。一般の方々の認識と大きく違うでしょうが、海軍の能力はそんなものです。

 そんなわけで、石破氏の答弁は、繰り返されてきた無意味な議論の繰り返しに過ぎず、原油を人質にした霊感商法みたいなものです。正直なところ「またか」という印象しかありません。軍事通を自認する石破氏が、こんな議論にはまっていることに失望を感じます。

 米中東軍のロバート・ホームズ作戦副部長が、海上自衛隊から給油を受けた米艦船が活動を「不朽の自由作戦(OEF)」に限る指示をしているかという質問について「指示は承知していない」と答えました。アメリカの認識はこんなものです。戦争という巨大な歯車の前で、給油した燃料の使い道など意識していられないのは当然です。アフガニスタンでの任務に就いていた艦船が、事態の展開により別の場所へ転用される可能性が常にあります。その際に「日本から給油を受けたから任務は受けられない」などという話になるわけがないのです。それが海軍というものであり、こんな馬鹿な話をする与党を信じる方がおかしいのです。

 一方、ピースデポがさらに新しい資料を公開しました。米海軍の補給艦ペコスは、キティホークに給油した後、ペルシャ湾内で給油活動を繰り返したということです。政府の見解はまるで成り立ちません。防衛庁が米軍に確認中というのは、時間稼ぎのようにも思えてきます。



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