石破防衛大臣に対テロ戦略はあるか

2007.10.16



 15日の衆議院予算委員会では、民主党の櫻井充氏が冒頭で対テロ戦争について質問し、石破防衛大臣などが答弁を行いました。記憶に基づいて問答を再現してみます。

(櫻井)対テロ戦争の成果はあがっているか。
(石破)船舶に対する無線照会が35%減少した。

 正規戦と違って対テロ戦争は成果がはっきりしないと石破氏は言い訳をしましたが、無線照会の回数が減ったことしかあげられないのでは話になりません。それにこれは目下問題となっている洋上給油に関する数字でしかありません。アフガニスタンの治安の向上を示す数字は他にも色々考えられるはずです。

(櫻井)アフガニスタンでのテロ犠牲者の数を把握しているか。
(石破)ISAFが数字を発表したことがないので分からない。

 ISAFのウェブサイトには、確かに統計は載っていないようですが、2003年以降の民間人や兵士の死傷に関するニュースは掲載されています。人手を使えばこれらを集計することができます。防衛庁ではこうした情報を分析していないのかと思いました。

 石破氏はこの質問に答えたくないのか、「我々がテロとの戦いを止めたらテロは減るのか」と反論を始めました。このため、櫻井氏から「そんなことは聞いていない」と注意を受けました。また、石破氏のいつものパターンが始まりました。これは戦略の考え方としては逆です。対テロ戦争の戦略は「テロを殲滅するための技術・手法」だと考えるのが常識なのに、「テロを増やさないため」という消極的な目的を前提とするのでは意味がありません。

 さらに、石破氏はテロを殲滅するには武力と民生の両方が必要だと言いましたが、どちらについても、その戦略を口にしたことはありません。普通、戦争は終結までの道のりの計画を立て、手筋を読んでから始めるものです。湾岸戦争の場合、手筋が読めました。対テロ戦争にはそれがないのです。

 結局、石破氏は「明確に減ったという数字を承知していない」と言い、「数字を質問したいのなら、事前に質問内容を示して欲しい」と言いましたが、櫻井氏に事前に通告していると反論されました。結局、石破氏は質問には答えられず、「増加傾向にある」と答えるに留まりました。櫻井氏は人道団体アムネスティの数字をあげて説明し、治安は一向によくなっていないことを指摘しました。

 答弁の中で、石破氏はまた独自のテロリズムの定義を持ち出しました。彼によれば「民主主義を全否定し、無限に人々を殺し続けること」がテロリズムだと言います。これでは、テロ組織は世界中の民主主義国を破壊し尽くすまで戦いを続けるように思えます。

 先日書いたように、テロリズムの学術的な定義は「テロリズムは暴力と暴力の脅威よって生じる」ということだけであり、それ以外の言葉をつければ当てはまらないテロリズムが出ます。そもそも、アルカイダもタリバンも民主主義を全否定などしていませんし、そんなことを主張したことは一度もありません。彼らはイスラム教国家をシーア派とスンニ派が分裂する前に戻すと主張しているだけです。彼らがやっていることの中に、民主主義とまったく相容れないものがあるのは確かですが、それが目的だと言ったことはありません。答弁の中で、福田首相が「タリバンは女性を虐待している」と答える一幕がありました。イスラム教には、女性がブルカで顔を隠しているのは、女性を守るためだという考えがあります。もちろん、これは日本人の価値観からすれば女性虐待に他なりません。しかし、この価値観を彼らに押しつければ、混乱を生むのは目に見えています。福田首相の発言がアフガニスタンで報じられれば、日本がイスラム教徒の改宗をもくろんでいると誤解されかねません。また、暴力行為も目的を達成するまでの話であり、無限に殺し続けるわけではないことも、冷静に考えれば分かることです。

 その上で言えば、アルカイダやタリバンが「民主主義を全否定し、無限に人々を殺し続けること」ような恐るべき敵であるとするなら、なおさら明確な戦略を立てるべきであるのに、それを彼の口から聞いたことがありません。多分、石破氏は、いかなる戦略も持っていないのだろうと思います。石破氏にとって軍事知識は兵器のディテールのことであり、戦略・戦術に関して研究したことはないのだと想像します。彼の話は、戦略・戦術のことになると急に曖昧模糊となり、誤りが増えるからです。すでに専門家が指摘しているように、いずれ対テロ戦は財政的な理由から、いくつかの活動を削減せざるを得なくなります。そんな戦争を生真面目に論じられても、とても信じるわけにはいきません。

 石破氏だけでなく、自衛隊出身の政治家がアメリカの対テロ戦略に追随しているのも情けない限りです。元自衛官は自民党に入るしかなく、そのために自民党の方針に従っているわけです。


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