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テロとは何か。リビア攻撃はテロを止めたか?

2007.10.13



 また、「太田光の私が総理大臣になったら...秘書田中。」に、石破茂防衛大臣が大臣室からの中継として出演すると聞いたので視聴しました。今回は、「テロとは戦いません!」というテーマでした。冒頭は少し見逃しましたが、「テロリズムとは何か」という問題が話し合われているところから見ました。

 石破氏をはじめとする反対派の人たちから、テロリズムが悪である理由として、「民主主義を否定し、暴力によって我々を攻撃するから」という説明がなされました。しかし、これはテロリズムの定義としては失当です。現在のような民主主義が制度化されたのは、ここ数百年のことで、テロリズムはそれ以前からあったからです。専制国家でもテロリズムは起こるのです。

 テロの定義に民主主義という言葉を入れるのは、主に政治の世界で行われることで、そうした方が人を説得しやすいのが理由です。場合によっては「お前は民主主義を攻撃する相手と戦わないのか」という、一種の踏み絵や恫喝のためにも使われます。

 アメリカ政府のテロリズムの定義は、「罪なき人々への、計画的で、政治的な動機を持った暴力」です。これは最も単純な定義で、誰が「罪なき人々」とするかという問題をはらんでいます。テロリズムの専門家ウォルター・ラクェアーによれば、テロリズムには百種以上の定義があり、一般的に合意できるのは「テロリズムは暴力と暴力の脅威よって生じる」ことだけだとしています。これによけいな言葉を付け足すと、その枠内に収まらない事例が出てしまうのです。このように、テロリズムの定義は真面目に議論すると、すごく難しいことなのです。政治は常に誰かを説得し、同意させなければならない仕事なので、拙速な定義を使いたがるのです。

 もう一つの変な議論は、石破茂防衛大臣が述べた「リビア空爆」です。

 石破大臣は、テロとの戦いが有効だという実例として、リビアに対する攻撃をあげました。石破大臣の説明によると、この攻撃は西ベルリンのディスコ爆破事件が原因で起こり、リビアを徹底的に叩いたお陰で、リビアはテロを止めたと説明しました。これには驚きました。私の記憶とかなり違うからです。

 この攻撃はディスコ爆破事件だけで起こったものではなく、さらなるテロ事件を生んだというのが本当なのです。ディスコ爆破事件以前から、リビアはテロ事件を繰り返しており、それに対する報復として、米機動部隊がリビア軍に対して限定的な攻撃を起こっていました。ディスコ爆破事件はそのあとに起き、アメリカ人が死亡しました。自国の人間が殺されたために、アメリカ政府は攻撃を決意し、1986年にエルドラド・キャニオン作戦を実行しました。テロを指示していたとみなされたカダフィ大佐の住居や空軍施設を爆撃を、爆弾300発とミサイル48発で攻撃しました。石破氏が言うような徹底的な攻撃ではなく、主に空軍施設に絞り込んだ限定的な攻撃でした。

 リビアは報復として1988年に飛行中のパンナム機を爆破し、乗客全員と地上にいた人々を殺傷しました。1992年、国連はリビアに犯人の引き渡しを要求し、リビアがこれを拒んだために同年と翌年に経済制裁を発動。その結果、1999年にリビアは犯人を引き渡し、賠償にも応じました。

 こうして見ると、武力によるテロの封じ込めは新しいテロを生んだけども、経済制裁が長時間をかけて成果を生んだということが分かります。素人騙すには、石破氏のような説明でよいのでしょうが、軍事を知る者を騙すことはできません。これが石破氏の論調の最大の欠点なのです。私はこのことを多くの人に知って欲しいと思います。

 若者に政治への関心を持たせるために、こういう番組はよいのかも知れません。しかし、舞台裏に専門家を置くことも大事ではないかと思います。今回のように、時として、あまりにも無知な議論が展開され、そのまま放置されるのを目にします。


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