混迷するイラク情勢に出口なし

2007.1.23



 イラク国内の暴力はさらに増加し、バグダッド市内で爆弾テロが連続しています。戦死者の数から見て、アンバル州でも激しい戦闘が行われているはずですが、最近、この方面からの情報が減っている点が気になります。昨年まではアンバル州で行われた掃討作戦は公表されていましたが、最近はほとんどニュースになりません。これは逆にまずい状況になっていることを連想させます。昨年12月にアンバル州とバグダッドは同じ程度の戦死者を出しており、アンバル州は多くが戦闘による死亡であるのに、作戦活動の情報が以前以上に出てこないのです。軍が情報を出し渋っているのか、メディアが報じないのかは分かりませんが、いずれにしても状況が悪いのは間違いないと考えます。

 military.comによると、イランは最近、ミサイルの発射実験やミサイル戦の図上演習を行い、国連の核査察官のリストから38人を拒絶し、挑発を続けています。さらに、シリアと共同でアメリカに対抗する方向で合意しました。これで、ベイカー・ハミルトン委員会が提唱したシリアとイランの協力によるイラクの安定化は選択肢から外れることになります。こうなると、アメリカがほぼ独力で安定化を図るしかありません。しかし、この環境ではシリアやイランから武装勢力と武器がイラク国内に入るのを止められません。アメリカは軍をサドル・シティに入れないという原則を撤廃するといいます。対立は強まり、それに応じてイラク政府の統治力は減っていくことになります。アメリカは増派が完了次第、武装勢力の拠点に対して攻勢をかけるはずです。そして、イラク政府にその地域の治安を任せるでしょう。しかし、シーア派の地域をスンニ派のイラク軍部隊が、スンニ派の地域をシーア派のイラク軍部隊が警備できるかという問題があります。住民は不安を感じ、兵士と住民の間でトラブルが起きることが目に見えています。かといって、同じ部族の兵士が地域を警備すれば、再び武装勢力が舞い戻ってくるだけです。イラクに安易な出口はないのです。これからの半年間、こうした問題が明確化するはずです。米軍がいくら作戦を創意工夫しても結果は同じです。湾岸戦争は用兵術の巧みによって勝てましたが、イラクの安定化はそれでは成し遂げられません。

 米下院だけでなく、上院でもイラク増派を拒否する動きが起こり、そのための法案が、それも共和党員の議員から提出されるようです。しかし、法案は大統領が署名しないと施行されませんから、この抵抗は形の上だけに留まるでしょう。私たちは、これから最も気の毒なイラク人と米兵士を見ることになるですし、それを止める術を持ちません。日本政府が反対意見を示してくれれば、少しは気が休まりますが、それも期待できないわけです。

Copyright 2006 Akishige Tanaka all rights reserved.