中国衛星迎撃実験の疑問

2007.1.20



 中国がミサイルで高度850kmにあった中国の古い気象衛星(フェン・ユン1C、極軌道衛星)を破壊するのに成功したことは、新しい宇宙戦争の幕開けを意味します。使用されたミサイルは、中距離弾道ミサイルDF-21/CSS-5(射程1,800km、弾頭重量600kg)と考えられています。しかし、中国は実験の存在自体を認めていません。

 高度850kmは中程度の高度で、偵察衛星やミサイル防衛衛星などがある高度でもあります。通信衛星などの静止衛星が用いる高度36,000kmに比べると低く、これが直ちに通信衛星への脅威とは言えないものの、ロケットの到達高度さえあげれば何でも攻撃できることになります。

 アメリカは地上からレーザーで人口衛星を破壊するシステムを開発すべきだという声があがりました。これは以前から考えられていた兵器で、技術的には可能と言われています。飛んでいる砲弾をレーザー光線で破壊するのに成功しているのですから、出力さえ大きくできれば人工衛星を破壊することは可能です。しかし、人口衛星の下部にレーザー光線を反射するような部品が取りつけられた場合は、衛星の外殻を焼き切ることができなくなるかも知れないという心配はあります。これには人口衛星の下部にミラーを設置し、光線が当たっても反射させて熱に変換させない対策が考えられます。長期間、宇宙空間にいることで付着する汚れは、レーザーの反射率を低下させ、防護が破られる恐れがあります。これはミラーを多層式にして、定期的に一番下のミラーを分離するとか、低温で溶解する透明な物質で覆うといった方法で解決できるのかも知れません。問題は攻撃力(レーザーの出力)と防御力(人口衛星のミラーの反射率)のバランスとなりますが、これらの情報が双方から公開されることはありません。科学的な一般論として推定し、ある程度の精度で攻撃の可能性を見積もれる程度です。

 アメリカがミサイルではなくレーザー兵器にしたのは、1985年までに米ソがミサイルによる衛星撃墜を断念したことに起因します。成功した実験が中止されたのは、残骸が宇宙空間に拡がり、他の衛星を破壊したり、ロケットの打ち上げの障害になる可能性が出たためです。もちろん、迎撃ミサイルが弾道ミサイルをミッドコース段階で撃墜しても、宇宙空間に残骸は残りますが、これは非常用の措置として容認されています。しかし、衛星の攻撃まで認める国はどこにもありません。レーザー兵器は衛星を機能不全にしながらも爆破はしないため、こうした批判を受けずに済むのです。

 地上に設置するのは、航空機に搭載するエアボーン・レーザーでは数秒程度しかレーザー光線を発射できないためでしょう。しかし、実際には移動型のレーザー兵器を開発する必要があると考えられます。恐らくは船に搭載されることになるでしょう。高波で船が揺れると照準がむずかしくなるという欠点はありますが、これしか方法はないように思われます。というのは、中国はアメリカが破壊する価値のある人工衛星を持っていないという、globalsecurityのジョン・パイク氏の指摘があるからです。本土に衛星破壊レーザー装置を配置しても、攻撃すべき目標はないかもしれないのです。中国のミサイルを攻撃するには、その領域の周囲まで移動する必要があります。

 中国本土上空に関しても、昨年北朝鮮がミサイル実験を行った時、中国は完全に出遅れ、アメリカから事実を教えてもらって事態を認知しました。ロシアはアジア地域の監視衛星は故障したままといわれますが、地上に警戒システムを持っており、それで探知したものと考えられています。中国が偵察能力を意図的に隠蔽している可能性もありますが、本土上空にもミサイル監視衛星を持っていない可能性もあります。

 また、昨年8月に、中国が中国本土上空にいるアメリカの人工衛星に対して地上から高出力のレーザー光線を発射したという報道がありました。私もこの報道を目にしています。レーザー兵器を実用化していながら、なぜ国際的な批判を浴び、時代遅れのミサイル実験を行ったのかは謎です。

 この件について、日本政府は中国に完全な説明を求めています。まずは、中国にボールを投げてどう返球してくるかを見るのが大事です。

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