民間軍事会社にも軍法を適用へ

2007.1.5



 これまで国際法上の立場が不明瞭だった民間軍事会社(PMC)の社員に、ようやく法の規制がかけられることになりそうです。ニュースを説明する前に、PMCの何が問題なのかを簡単に説明します。

 PMCは顧客の依頼を受けて軍事上の仕事を請け負います。その内容は後方支援から戦闘まで様々です。しかし、戦闘行為を行う場合、彼らはジュネーブ条約上の「戦闘員」の資格は得られないとされていました。戦闘員として認められるのは軍人の他、一定の条件を満たす市民兵や一般人だけです。PMCの社員は、依頼主との契約により活動をすることで定義できるため、戦闘員の条件のいずれも満たしません。特に傭兵は戦闘員とされないと決まっており、PMCの社員は傭兵ともみなされないとされています。傭兵は個人を指すと解されるため、組織として行動するPMCは該当しないと考えられます。その結果、PMCは顧客との契約に関すること以外では、何をしても法に触れないという異常な事態が生まれました。アブグレイブ刑務所の捕虜虐待事件でも、軍人だけが処罰され、より事件の核心にいたはずのPMC社員は裁かれていません。唯一、PMC社員が統一軍規法典に問われるのは、議会が正式に戦争を宣言した時だけですが、第2次大戦以降、戦争が宣言されることは減りました。イラク戦争は「戦争」と呼ばれてはいますが、正確には戦争ではありません。よく「戦争以外の軍事行動」と呼ばれています。また、戦争状態の場合もPMC社員は軍法に問われるだけで、ジュネーブ法上の規定とは無関係です。こういう状況なのに、PMCの活動範囲はどんどん広くなっており、報告義務もないために、明らかになっていない様々な事件を起こしていると考えられています。この記事も、イラクで活動しているPMC社員は過去3年半の間、ただの一人も起訴されていないと指摘しています。

 military.comによると、今回、国防省予算法案の中に5つの言葉「get out of jail free」が書き込まれ、それはPMC社員にも統一軍規法典を適用できるようにするといいます。このため、統一軍規法典の、この法律が適用される者の規定(第802条のa)が改正され、PMC社員も含まれるようになるのです。第802条のa10項は、軍に勤務する民間人を次のように規定しています。

(10) In time of war, persons serving with or accompanying an armed force in the field.(戦時において、戦場で軍隊と共に、あるいは随行して勤務する者)

 この条文の「war」が「declared war or a contingency operation(宣戦布告された戦争か偶発的な作戦行動)」へと書き換えられます。すると、イラク戦争のような戦いは「偶発的な作戦行動」に該当し、PMC社員に軍法を適用できるようになるのです。法案はスムーズに議会を通過しました。

 理想からいえば、まだ不十分ですが、PMCに一つの枠がかけられたことになります。アブグレイブ虐待事件で軍人だけが処罰され、それが高級将校にも及びました。今回の改正には、同種の事件の再発を防ぐ意図があるように思われます。今後はPMC社員が何かやれば、すぐに軍の犯罪捜査部が動き出し、起訴手続きが取られるのですから、活動に制約をかけることはできるでしょう。ただ、これはPMC社員をジュネーブ条約上の保護を受けさせるための布石かも知れないという疑問もあります。

 この改正には問題点もあります。新しい法律は従軍記者にも適用される可能性があると、記事は指摘しています。記者たちは、武装しておらず、国と契約もしておらず、任務を任されているわけでもありません。何より、彼らの仕事は軍を批判的な視点で観察することで、統一軍規法典の下に置かれるのは問題だというのです。これはかなり微妙な問題だと思います。「従軍記者を除く」と条文に書き込まないと、排除できそうにありませんね。

 ところで、記事に面白い数字が載っています。兵卒クラスの最上級の階級である「伍長勤務上等兵」や「技術兵」がイラクに派遣されると、その年俸は20,000ドル以下です。ところが、同じ仕事をPMC社員が行った場合の年俸は100,000〜200,000ドル(非課税)になります。

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