新戦略策定を急がないブッシュ大統領

2006.12.14



 イラク新戦略は、その後のブッシュの発言を聞く限り、いよいよ期待が持てそうにありません。ワシントン・ポストの記事は、ブッシュの無策ぶりと、それを自覚せずに放言を続ける姿を報じています。ブッシュ大統領は、新戦略の決定について「(私は)急かされない」と言い、「敗北を導く一部のアイデアは拒絶する」と述べました。

 周りが大統領を急かしているのではなく、大統領が次善策を用意しておかなかっただけの話です。宿題をやってこなかった子供の言い訳にしか聞こえません。更迭されたラムズフェルドは、「反対意見を述べる奴は首を切る」と軍高官を脅していたと伝えられています。ブッシュ政権では次善策の議論をすべきだと言えば、敗北主義者の烙印を押されかねませんでした。急がないと、イラクの人々の犠牲は減らず、米兵が意味なく死ぬ状況は変わりません。しかし、大統領は急ぐ気はないというわけです。本当のところは、「気がない」のではなく、「能力がなくてできない」のでしょうが。

 もともと、「敗北を導くアイデア」を出したのはブッシュ大統領であり、それはイラクに侵攻した年にすでに軍事専門家によって指摘されていました。以後、この指摘が正しかったことが証明されてきたのですが、大統領はまだ勝利を目指しているようです。ブッシュは、「我々は諦めない。その危険はあまりにも高く、その結果はアメリカ人とイラク人を傷つけることを望む過激主義者たちにイラクを引き渡すという重大なものだ」とも述べました。しかし、米軍がイラクを侵攻する前は、フセイン政権の暴力はありましたが、武装勢力やテロリストはイラクにはいませんでした。現在の治安悪化を招いたのは、西側諸国が駐留しているからに他なりません。どうせ、ブッシュは自分が問題を拡大しているなどとは言わないのは分かっています。誰かが、イラク侵攻は誤りだということを、政治の場で公式に認定する必要があります。

 米テレビ局の報道では、ブッシュは一時的増派と段階的撤退の組み合わせを考えていると報じられています。「やれやれ、やっぱりか」と言わざるを得ない展開です。一時的増派と段階的撤退は、次の大統領選挙に共和党から出馬することが予想されているジョン・マケイン上院議員が主張している意見です。しかし、この意見は絶対に通らないことを承知の、軍事的に意味のない政治的発言だというのが大方の見方です。採用されなくても、マケイン上院議員が大統領選挙に出馬した時、「あの時、私が言ったように一時的にイラクに増派していれば状況は変わったはずだ」と言えるからです。ブッシュは、マケインの挑戦的発言が癪にさわったのか、マケインの意見を本気で実行するつもりのようです。一時的に増派したところで、状況は何も変わりません。変わるのは、ブッシュが「自分は決断した。自分は対策を取った」という満腹感を持つことだけです。

 ブッシュは今年もクリスマス休暇を取るのでしょうか? 多分、たっぷりと取るのでしょう。護衛付きで静養先に移動し、たっぷりの七面鳥で自らの主の誕生を祝うのでしょう。しかし、イラクでは例年、クリスマスでも米兵はパトロールや強襲作戦に従事させられています。

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