あさしお衝突事件・ふたつの異なる見解

2006.12.4



 潜水艦「あさしお」とケミカルタンカー「スプリングオースター」が接触した事故で、ふたつの異なる見解が報じられました。11月28日の毎日新聞は二隻の船の音が重なる「マスキング」という現象により、水測員(ソナー要員)がスプリングオースターを発見するのが遅れたと報じ、12月3日の読売新聞は水測員がスプリングオースターが接近するのを報告したのに、隈元均夫艦長が遠ざかっていく船と混同し、浮上を続けたのが原因だと報じました。

 明らかに異なる見解が報じられたわけですが、読売新聞の方がより遅く報じられていることから、海自が毎日新聞が報じた見解を後で修正したものと思われます。いくらマスキングが起きたとしても、すぐ近くに来ている大型船を発見できないわけがないことからも、読売新聞の記事の方が真相に近いと考えるべきでしょう。マスキングが起きても、それが衝突を引き起こすほどソナー探知を妨害するとは考えにくく、「あさしお」は十分に回避行動を取れると考えられます。

 ただ、双方の記事は情報としては完全ではなく、時間軸に沿った艦内の命令伝達の内容や、ソナー探知の実際について、詳しく書いてあるわけではありません。また、今後もそうした情報が新聞に載ることはないでしょう。航空機事故のように、時刻が記入されたボイス・レコーダーの記録が公開されることはないのです。それでも、今回の事故の主原因は、ソナー探知の失敗よりはコミュニケーションの失敗が原因だと考えるのは妥当だと思えます。

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