捜査の進展を待望するリトビネンコ暗殺事件

2006.12.1



 アレクサンドル・リトビネンコ氏の怪死事件は、情報が錯綜しすぎており、コメントするタイミングがつかめないでいます。報道の量は多いのに、まだ被害者の検死すら行われていないため、事件の全体像が見えないでいます。報道が洪水のように流れているため、すでにこの事件についてかなり知っているように感じている人が多いのではないかと思うのです。

 リトビネンコ氏の死にロシアが関与しているという疑いは一応自然です。「一応」というのは証拠がないからですが、過去、ロシアでは毒殺は暗殺の手段としてよく使われてきました。怪僧ラスプーチンもワインに毒を入れる暗殺が実行されました(彼は毒では死なず、別の方法で殺されました)。ゲオルギ・マルコフが傘に偽装された銃から発射された毒入りの銃弾で暗殺された事件にはKGBが関与していました。ソ連崩壊以降、ロシアは元KGB職員による支配が強まり、実質的に独裁支配態勢となっています。また、暗殺に使用されたのがポロニウム210であることから、こうした物質を使える組織が関与していたという点でもロシアは候補にあがります。リトビネンコ氏自身の自殺説は、彼がこうした物質を手に入れることが難しいという点で否定して構わないでしょう。

 実は、ポロニウム210自体は我々の身近にもあるといいます。煙草にはポロニウム210が含まれており、肺ガンの原因になっているといいます。低価格の肥料に含まれていることもあり、そのために煙草が汚染されるのだというのです。問題はその量で、致死量分を作るには一番簡単な方法で原子炉が必要ということです。こうなると、それが可能な組織は必然的に限られてきます。ただ、完成品を手に入れるという方法がないわけではありません。

 12カ所あるというポロニウム210の発見場所ですが、たとえば、自宅のどこで検知されたかは公表されていません。健康保護局(HPA)やジョン・リード内務長官は、リトビネンコ氏の尿から検出されたと発表しましたが、大便からは出ていないとは言っていません。その検査をしたのかどうかが気になります(多分、やっているとは思いますが)。イギリスの航空機から発見された放射線反応がポロニウム210かどうかも、まだ分かっていません。やはり、もう少し情報が出てこないと、こういう暗殺事件では判断が下せないと思うのです。

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