イラクの治安悪化とブッシュ大統領

2006.11.29



 昨日、米NBCテレビが、イラクの状況を「内戦」を表現すると決めたと発表しました。恐らく、他の米テレビも追随し、日本のマスコミも後に続くでしょう。私は24日と27日に、「内戦の一歩手前」とする米政府の主張は現状とずれている、と書きましたが、アメリカのメディアもとうとう痺れを切らしたようです。実は、ブッシュ大統領はNATOサミットに出席するためにラトビアへ向かう途中、エストニアでの記者会見で、イラクを内戦状態を呼ぶことを拒絶していました。NBCは鬼の居ぬ間に、内戦と呼ぶことにしてしまったわけです。多分、世界中でこう思っていた人は大勢いて、NBCの決定には溜飲を下げたはずです。

 ワシントン・ポストによると、エストニア大統領と共に出席した記者会見で、ブッシュ大統領はこういう発言をしました。

我々は柔軟であり続けます。そして、我々は勝利のために必要な変化を行います。

しかし、私が行っていない唯一のことがあります。私は任務を完了するまで戦場から兵士を引き揚げません。

イラクとアフガニスタンでの闘争は、中東全域で展開する穏健派と過激主義者の戦いです。この闘争において、我々は子孫のために勝利以外の何者も受け容れられないのです。

NATOはヨーロッパ以外の地域で中東に民主主義的改革を支援する責任があります。連合は中東全体を変えるために働く穏健主義者と改革主義者を引き立て、支援しなければなりません。我々はカブールからバグダッドを通じてベイルートまで、若い民主主義国を強化することで万人に希望をもたらし、圧政とテロへの強い選択肢として自由を前進させなければなりません。

私は、我が国の一部やここヨーロッパの一部の人たちが、中東における民主主義と平和の見込みに疑問を持っていることは認めます。私はこうした疑問は理解しますが、同調はしません。アメリカとNATOは中東の人々に際限のない抑圧を送る悲観主義に降伏することを拒絶します。

 相変わらず言葉だけは立派です。要するに、NATO諸国に中東から引き揚げて欲しくないので吹かしているだけです。彼にそのための具体的な方策などないことは明白です。

 しかし、大統領の意向に反して、イラク情勢はさらに悪化しています。ワシントン・ポストが、最近情報開示された米海兵隊の機密情報に基づいてアンバル州の状況悪化を伝えています。この5ページの報告書はペーター・デヴリン大佐(Peter Devlin)によって作成されました。彼は海兵隊の情報部のベテラン将校です。この報告書を以下に箇条書きに記載します。

アンバル州ではすでに米軍の力では抑えきれず、反アルカイダ勢力が大衆の支持を得ています。

現状は8月の状況よりも遙かに悪化しています。

スンニ派はシーア派勢力の増大によって虐殺されることを恐れ、アルカイダへの依存度を強めており、米軍はイラクが安定する前に撤退する可能性が高いので、米軍に協力するのは賢明ではないと考えています。

シーア派とクルド人には石油資源を持っているのに、スンニ派にはありません。そして、アルカイダは石油の不正取引で多額の利益を得ています。

アンバル州では経済的復興の可能性はありません。

シーア派が支配するイラク政府は、アンバル州に配備した公務員と軍人に給料を支払っていません。
12月の選挙は成功しましたが、村から州までのほとんどの政府機関のレベルは崩壊したか、アルカイダによって堕落、浸透されました。

イラク軍はアメリカ人と共に戦うことが可能とは思われません。

アンバル州には125万人のイラク人がおり、そしてその大部分はファルージャ(Fallujah)、ハディーサ(Haditha)、Hit(ヒット)、Qaim(カイム)、ラマディ(Ramadi)のような暴力事件が多発する町に住んでいます。

今年3月から8月までの間に、民間人への攻撃は57%増加しました。

攻撃のレベルは頂点に達したと思われますが、2003年中期から2006年までの攻撃の継続的な増加は、アンバル州の武装勢力を打倒するのに明確に失敗したことを示しています。

15,000〜20,000人の米軍師団を追加派遣するのではなく、この州へ数億ドルの援助を行うことを提案します。米軍には、武装勢力を支配するためにできることは何もありません。

アルカイダは、アンバル州の支配組織を牛耳り、イラク政府と米軍がスンニ派のその日の生活を統制する能力において、他の組織より群を抜いています。

アルカイダは今や、「イラク西部の社会機構に不可欠な部分」であり、定着し、自治権を持ち、財政的に独立しており、米軍はもはや「組織を行動不能にするために決定的な攻撃を行う」選択肢を持っていません。

アルカイダのイラクでの指導者、アブ・ムサブ・アル・ザルカウィが6月に死んだことは、特にアンバル州ではアルカイダの組織と能力に僅かな影響しか与えなかった。

この地域に安定をもたらすための方策 − アンバル州にスンニ派の国家を建設。スンニ派を守り、イラン人の影響を相殺するために地域的な自警武装集団を創設。地域へ予算を移譲。多くの地域で強い回復力を証明した献身的なイラク警察軍を強化。

 この報告と上のブッシュの発言をよく見比べて欲しいと思います。

 それから余談ですが、military.comによると、イラクで墜落したF-16CGに関する情報は未だに多くが非公開のままです。所属部隊はイラクのバラド(Balad)空軍基地に派遣されている第332空軍遠征航空団と発表されましたが、パイロットの氏名については「所在不明の在職者」としか公表されませんでした。事故当時、F-16CGは地上部隊の指揮官の管制下にあり、墜落現場からDNAを採取して分析中(分析は2〜4日を要する)、射出座席が発見されたことなどしか発表されませんでした。パイロットが死亡したことも明言はされていませんが、DNA鑑定をやっていることから、死亡しており、死体の損傷が激しいことが推測されます。墜落が敵対行動によるものかも触れられていません。どうも、米軍はこの事件のダメージをできるだけ小さいものにしたいようです。そうしたい何かが、この事件にはあるのかと疑ってしまいます。武装勢力が高性能の対空ミサイルを持っていたのか、重大な故障がF-16CGに起きたのか、あるいは単にまだ何も分かっていないだけなのか…?

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