イラクの治安悪化についていけないアメリカ

2006.11.21



 宗派対立はさらに激化し、military.comによれば、イラクの国務大臣モハメド・アッバス・アライビ(Mohammed Abbas Auraibi)を乗せた車列が、月曜日現地時間午前9時半、路傍爆弾で狙われ、護衛官2名が負傷しました。アライビ氏はシーア派であることから、スンニ派の犯行と思われますが、事件が起きた場所が東バグダッドの幹線道路というのが危機感を覚えさえます。アライビ氏は南部イラクのアマラ(Amarrah)での公務からバグダッドへ帰る途中で事件に遭いました。アマラからバグダッドに戻るには、バグダッドの南東から市内に入る幹線道路があるのですが、こうした場所にもスンニ派が罠を仕掛けられるのです。私は、バグダッドのスンニ派は街の北部を支配しており、南東部はシーア派の地だと思っていました。

 AP通信によれば、同じ日、イラクの喜劇専門チャンネル「シャルキヤ・テレビ」の番組「カリカチュア」に出演していた有名コメディアン、ウォリッド・ハッサンも殺害されました。この番組は、占領軍や武装勢力、イラク政府を笑いの種にしていました。最近、イギリスのITNが製作したドキュメンタリー番組がNHKで放送され、コメディアンたちの現状が紹介されました。ハッサンはこの番組には出ていなかったようですが、「カリカチュア」は紹介されていましたから、番組に登場した人たちもいつ殺されるか分かったものではありません。

 アメリカの対応は例によって遅れており、現状とまったく噛み合っていません。それでも、努力はしています。予想通り、民主党はロバート・ゲーツが国防長官になることを承認します。彼の就任に反対して、イラク製作がさらに遅れるよりは、承認する道を選んだのです。それでも、アメリカが民主主義的な手続きを踏んでいる間に、状況はどんどん進んでいます。アメリカとイギリスが協力者と指名したシリアとイランは早々にイラク代表との会合を持ち、どう対応するかを決めるようです。アメリカはこうした動きによって自分の主導権が失われるのを恐れるでしょう。

 military.comによると、次回の大統領選に出馬が噂されるジョン・マケイン上院議員が、イラクにさらに増派すべきだと発言しました。彼は、イラクを安定させ、攻撃に対応するために、イラクに圧倒的多数の兵数を派遣し、あるいは米本土にも兵を増すべきだと主張しました。ビン・ラディンは米本土を狙っているというのが彼の考え方です。また、国防総省は、マケイン議員のように大規模に増派するか、縮小して長期的に駐留するか、撤退するか、の3つのオプションを考えていると、ワシントン・ポストが報じました。こうした戦略転換が決まるのには、まだ時間がかかります。アメリカは動きが鈍い巨人なのです。この調子だと、現状の変化に追いついていけるか厳しいところです。

 最近、イラク統治が失敗だったことをテーマにしたドキュメンタリー番組がテレビ放送されることが増えています。イラクは医療レベルが高い国だったのに、アメリカが統治してから基本的な薬すらなくなり、未だにその状態が続いています。あるテレビ番組では、点滴の針やビタミン剤がないために少女が死亡する状況を放送していました。テレビニュースなどで、イラクの医師へインタビューが報じられる時に注意して見てください。彼らは非常に知的で洗練された医療従事者です。それにも関わらず、基本的な医療物資がないために十分な治療ができないでいるのです。こうした緊急的な支援のための予算支出には不正行為がついて回ります。イラクへ支出された予算の多くが、不明瞭な使途のために使われたという批判が起きています。これがアメリカの占領統治の実態なのです。復興支援活動は政治ショーと化し、現地民にとってはた迷惑なものになる危険性が高いことを我々は知っておくべきです。

 アメリカが戦略転換でもがいている最中に、イラクでは犠牲が増え続けています。この構図を忘れないことです。誤った戦略はこうした状況を生むものです。

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