ウォーゲームは啓発のために使えるか?

2006.11.14



 アメリカでは今、ブッシュが中間選挙の前にラムズフェルドの更迭を発表していれば、民主党に議会の主導権を奪われることはなかったという批判が拡がっています。要するに、ブッシュの判断が甘すぎたという選挙の結果に対する批判です。これはいつでも出てくる意見で、特に驚くべきことではありません。

 実のところ、こうした批判は現実の軍事問題に対した影響は与えないものです。同時多発テロの後のアメリカは、怒りにまかせて戦略的ミスを犯しました。これは冷静さを失った判断がさらなる誤りを導くという、よく知られた教訓そのものでした。あんなテロ攻撃を受けた時も、客観的立場を失わない人間は冷静すぎて頭がおかしいと思われるかも知れません。しかし、軍事を知る者なら、冷静さを失った頭にまともな判断はできないことを知っています。一般的な常識に従う人ほど、こういう誤りを犯しやすく、あまりにも一般的な頭脳を持つブッシュ大統領が間違いを犯したのも当然だったといえます。私もイラク侵攻に楽観的な意見を示す人に、そう考える根拠や証拠をいちいち問い質し、嫌な顔をされたことがあります。しかし、根拠なく重大な判断を下すことほど間違ったことはないのであり、嫌な思いをするくらいで考えが修正できるのなら、戦争で死ぬ人を少しでも減らすことができると思うのです。

 最近、やはりウォーゲームをやることは、軍事的判断を向上させることになるのかも知れないと考えはじめています。書評でも取りあげたウォーゲームの大家、ジェームズ・ダニガン氏が2004年3月23日に書いたコラムに参考になる記述がありました。

 ダニガン氏は、過去の経験から学ぶ方法として、退役軍人の話や歴史家やジャーナリストが書いた本をあげていますが、これらは玉石混合であるとしています。ウォーゲームは敵の視点から戦争を見る能力を養います。米軍ではウォーゲームは限定的にしか使用されていません。ダニガン氏は、最新の戦争をウォーゲームでやってみることを重要としており、ボランティア・グループを作って戦術の研究を行っています。その道具として使っているのは、偶然にも、私が先日画面写真を掲載したBattlefront社の「TacOps4」です。このグループに興味がある人は、「Team Trackless」のサイトにアクセスしてみてください。

 私も簡単なウォーゲームを使って、一般の方々が戦争を理解することはできないかを考えてみましたが、なかなかよい手がありません。まず、戦争をゲームにすることに対する抵抗感というものがあります。ウォーゲームが好きになったら、人が大勢死ぬ戦争を数字でしか見なくなり、何とも思わなくなるという心配は当然です。しかし、私はウォーゲームを体験して、余計に戦争について真剣に考えるようになりました。正しく考えさえすれば、世界征服の野望にとりつかれることはないのですが、この偏見を打ち破るのはまず大仕事です。

 それに、費用がかからない、比較的やさしいゲームが必要です。著作権を放棄したウォーゲームのルールはあるので、これを翻訳すればよいのですが、これらはミニチュア模型を使ったゲームで、人が集まらないとできないのです。パソコン用のウォーゲームで無料のがあったのですが、実際にダウンロードしてみると動きませんでした。「TacOps4」は、電子メールを使って遠隔地の人とプレイできる機能があり、ダウンロード版が25ドルで入手できますが、日本語ルールを作る暇がありません。

 「TacOps4」は一般人には分かりにくいので、戦闘をアニメーションで見せてくれる「Combat Mission」の方がよいかもしれません。さらには、現在開発中の「Theatre of War」はもっとリアルなアニメーション(デモ映像をごらんください)になる予定で、こちらの方が分かりやすいのかも知れません。

 まとまりがなくて申し訳ないのですが、うまい方法がまだ見つかりません。また、戦術面を学べるゲームよりも、外交交渉のゲームの方がよいのではないかという気もします。学校の授業でも使われているという「第二次世界大戦の起源」というゲームは、ルールが極めて簡素で候補にあがります。プレイヤーは主要5ヶ国の国家元首になり、それぞれの国家目標を追求することで、大戦直前の複雑な利害関係を体験しようというものです。もう日本では販売されていないはずですが、著作権がどうなっているのか分からず、ここで紹介してよいのか、私には判断がつきません。

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