ハムダニヤ事件・ジャクソン兵長が有罪を認める

2006.11.8



 イラク人男性ハシム・イブラヒム・アワドを殺害したハムダニヤ事件の被告の一人でこれまで名前が知られていなかったタイラー・A・ジャクソン兵長(Tyler A. Jackson、23歳)が起訴の一部について有罪を認めました。この事件で起訴されているのは7人で、ローレンス・ハッチンズ軍曹、トレント・トーマス伍長、ジェリー・シュメート伍長、マーシャル・マジンカルダ伍長、ジョン・ジョッカ三世上等兵、メルソン・J・バコス3等海曹の名前が報じられていました。

 今回の証言で、バコス3等海曹の証言よりも詳しい事件の内容が分かりました。アワドを殺害したのはハッチンズ軍曹とトーマス伍長ではなく、その他の兵士も発砲していたようです。まず、大勢でアワドを撃ち、それからハッチンズ軍曹とトーマス伍長がさらに銃撃したようです。

 ジャクソン兵長は「ハッチンズ軍曹が我々に並ぶように命じました。私を含めた全員が発砲しましたが、私は彼(アワド)の頭上に向けて撃ちました。私は彼が撃たれたことは認識しており、そういうことをする者になりたいと思いませんでした」と証言しました。さらに、当時、彼はアワドが容疑者の武装勢力であると信じていたとも証言しましたが、シャベルとAK47を置いて武装勢力に見せかける隠蔽工作が行われたことも認めました。

 この事件で有罪を認めたのは、ジョン・ジョッカ三世上等兵、メルソン・J・バコス3等海曹(禁固1年が確定)に続いて3人目です。ジャクソン兵長の判決は今月16日に出る予定で、最大15年間の禁固刑が予想されますが、司法取引による証言を行ったために減刑される見込みです。

 ジャクソン兵長の言い分は、自分は上官の命令に従ったのであり、アワドを武装勢力と誤認しており、アワドを銃撃しなかったのだから、加重暴行と司法妨害は認めるが、殺人、誘拐、窃盗、強盗については無罪だということで、主張としては妥当と思われます。この問題は判断が難しく、すべて上官の責任にならない場合もあります。遺体の検死が行われたかどうかは分かりませんが、ジャクソン兵長の銃弾がアワドの体内から出なかったら、彼が本当に空に向けて銃を撃ったことは証明できるでしょう。

 この分隊が、容疑者を逮捕に向かったはずなのに処刑した理由が分かりませんが、武装勢力は取り調べをする必要はなく、殺してしまえばよいと考えていたと想像するのは難しくありません。命令に反しているという意識が彼らになかった点は非常に気になります。これがイラクに派遣された米軍兵士の一般的な意識だと考えるのは難しくありません。ベトナム戦争に従軍した経験を持つ映画監督オリバー・ストーンは、当時、自分がベトナム人の文化についてまったく無知で、何も理解していなかったと言っています。イラク侵攻でもまったく同じことが起きています。私たちがそこに目を向けられないことも、戦争が起きる一つの原因なのです。だから、いまアメリカがイラクでやっている軍事行動は救いがないものなのです。

 とにかくも、ハムダニヤ事件の外堀が次第に埋まって来ました。ハッチンズ軍曹が事件を主導した証拠が次々と固められています。刑の軽い者から順番に真相を証言し、それが首謀者の裁判で証拠として使われるという典型的なやり方が着々と進められています。

 最近の特徴として、容疑者の家族がウェブサイトを立ち上げ、裁判費用の寄付を募ったり、無実を訴えることが増えています。ジャクソン兵長の家族もそうしたウェブサイトを持っています。トーマス伍長マジンカルタ伍長の家族もウェブサイトを持っています。容疑者にとっても、その家族にとっても、軍事裁判は天国と地獄を生むことを、軍事を考える者は知っておく必要があります。

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