7割がイラク派遣を支持した世論調査

2006.11.3



 内閣府が行った世論調査で、イラクでの自衛隊の活動について、回答者の7割が支持していることが分かったという報道がありました。発表された調査結果は内閣府のサイト「平成18年度特別世論調査」で見ることができ、pdfファイルで入手できます。

 この調査で驚いたのは、ニュースなどの入手先に関する質問でした。複数回答が認められたアンケート調査で、第1位の「テレビ」と答えた人は96.3%、第2位の「新聞」が77.3%なのに、第3位のインターネットは9.8%に過ぎないのです。予想以上に小さい数字だといえます。ここから、「7割が支持」したという調査結果は、主にテレビと新聞から情報を得ていた人たちの意見だということになります。もし、インターネットを選んだ9.8%の人だけで調査したら、結果がどうなったのかが気になります。

 インターネットの良さは、世界中の情報に接触できることです。かつてはその日に発売された外国の新聞を読むなんて、一般人には不可能に近いものがありました。また、世界中の人々が書いた文章を手軽に読むことも不可能でした。少年の頃、私は海外で戦争が起こると、新聞を丹念に読んで状況を知ろうとしたものですが、いくら読み込んでも納得がいく説明が得られることは僅かでした。最初は、自分の知識が足りないとか、そもそも頭が悪いのではないかと疑いました。それらを補おうとしてドキュメンタリー本を盛んに読むようになりました。しかし、インターネットが手軽に使えるようになって、海外の新聞が読めるようになると分かったのは、同じ英語でもメディアや国によって、かなりの違いがあるということであり、日本には情報の一部しか伝えられていないということでした。これに気がついた時はかなり衝撃的だったのですが、こうした報道の実態によって、世論も操作されている危険性があることでした。

 湾岸紛争が起きた時、ある小学校か中学校の先生が、新聞を教材にして生徒に湾岸紛争を研究させたという記事を見たことがあります。ちょうど、外交交渉が大詰めに差し掛かっていた時期で、ソ連(当時)が仲介に乗り出してきた時でした。生徒たちは「ソ連の交渉が紛争解決の鍵」と結論したと、記事に書かれていました。私はまったく正反対の結論を出していました。このタイミングでソ連が介入したところでイラクが納得するような条件は提示できず、交渉は確実に失敗に終わると分析していたからです。新聞を情報源にすれば、そう結論するのは無理もないと思いました。当時、新聞はどの国が仲介に乗り出してきても、それに期待を寄せるような書き方をしたでしょう。子供たちがそれに引っ張られて、仲介に期待を感じたのは当然です。しかし、もし子供たちが戦争の歴史を十分に行った上で湾岸紛争を検討したら、ソ連の仲介は無意味なことに気がついたはずです。

 先日、「太田光の私が総理大臣になったら …秘書田中。」というテレビ番組で、「政治に関する世論調査を禁止します」というテーマが取りあげられました。賛成派は「世論調査が世論そのものを誘導する危険性がある」と言い、反対派は「問題点を認識しながら利用し続けるべきだ」と言いました。確かに、今回の世論調査は安倍内閣に利用される危険性が大きいと言えます。今回の調査には「自衛隊が国際平和協力活動に積極的に取り組むべきだと思うか」という質問もあり 、「積極的に取り組むべき」と「どちらかといえば取り組むべき」と答えた人を合わせると74.8%にもなります。この結果を、安倍内閣が「ご指示を頂いたものとみなす」と表明してしまえば、楽に自衛隊を海外に派遣できるようになるでしょう。なぜなら設問にはこう書かれているからです。

自衛隊は、イラク人道復興支援活動以外にも、テロ対策のための協力支援活動や、国連平和維持活動、国際緊急援助活動などといった国際平和協力活動を実施しています。今後、このような国際平和協力活動に積極的に取り組むべきだと思いますか。それとも、取り組むべきではないと思いますか。

 実は「テロ対策のための協力支援活動」「国連平和維持活動」「国際緊急援助活動」は、それぞれ性質が異なるものなのです。たとえば、「テロ対策のための協力支援活動」は海自のインド洋での給油活動、「国連平和維持活動」はゴラン高原への陸自輸送部隊の派遣、「国際緊急援助活動」はスマトラ島沖地震に救援隊を派遣したことだといえますが、これらをひと括りにして考えようとは普通は誰も考えません。ところが、アンケートの質問にすると不自然に見えなくなるのです。

 おまけに、この調査結果にはこうも書いてあります。「本資料の内容を引用された場合、その掲載部分の写しを下記宛にご送付ください。」 何のために、このような要請をするのか、まったく理解できませんし、したくもありません。

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