ブッシュ政権の見解は迷走だらけ

2006.10.26


 アメリカのイラク政策がいよいよ転機を迎えようとしています。2,800人以上の米兵を戦死させ、その約十倍を負傷させ、何の成果もあげられないまま、ブッシュ政権はイラクから手をひく準備を進めつつあります。

 9月末以降のテロ事件の増加により、米軍の縮小はなくなり、また増派が検討されています。military.comによれば、イラク統治の責任者、ジョージ・ケイシー大将は兵力が現在の約144,000人から、さらに増員される可能性を示唆しました。それにも関わらず、イラク人に統治を引き渡す過程の75パーセントに達し、12〜18ヶ月後にはイラク軍に完全に権限を譲渡できるとも言っています。今年はじめの見解では、年末までに米軍を部分的に撤退できるといわれていましたが、例によって実現しませんでした。明らかに矛盾した話しかできないところに、イラクの現状のひどさが凝縮されています。イラクに権限を譲渡した後で米軍が段階的に撤退すれば、シーア派によるスンニ派への弾圧が強まり、クルド人の独立運動も活発になり、イラクはいよいよ分裂状態となるでしょう。米政府は「いま、撤退するとイラクが内乱状態になる」と言っていますが、それは権限譲渡後も同じなのです。

 もはや、ブッシュ政権のイラク政策に関する発言は支離滅裂です。23日、スノー大統領報道官は記者会見で、大統領が「stay the course(最後まで戦う)」と言うのを止めたと言いました。これは、現在ジェームズ・ベイカーの委員会で検討されている、イランとシリアの協力によるイラク統治を止めるという意味ではありません。段階的撤退だけをやる「cut and run」が選択できない以上、「stay the course」しか選択の余地はないのです。「stay the course」も最終的には米軍撤退を行うことを目的としています。それまで米政府が犯した戦略的誤りを隠し続ければ、何とかなるというのがブッシュ政権の政策の主眼なのです。もともと、焦点の合った戦略ではなかったため、ブッシュ大統領の発言は混乱に満ちています。ブッシュはホワイトハウスでの記者会見で、「我々は勝っており、勝つでしょう。我々が仕事を終える前に撤退しなければ」と、最後まで戦うかのようなことを言い、スノー報道官の発言のあとで未だに「stay the course」の立場に立っているかのような発言をしました。ラムズフェルド国防長官については「私は彼が成し遂げた仕事のすべてに満足しています。彼は賢明で、タフで、有能な指導者です」と述べます。しかし、同じ記者会見で「私は多くのアメリカ国民が現状に満足していないことを知っています。私も同様に満足していません」とも述べています。いまや、修辞的な表現だけでなんとか体面を繕うのみです。アメリカ国民も、こうしたブッシュのボーイスカウト・スタイルを装った発言にはうんざりしているでしょう。どの道、彼は放蕩息子であり、国家戦略を論じる場には相応しくない人物としか言いようがありません。

 ベトナム戦争にしろ、湾岸戦争にしろ、この時の為政者たちは自分がやっていることくらいは理解していました。イラク侵攻はそうした理解がまったくない者たちが引き起こしました。湾岸戦争の時、国防長官だったチェイニー副大統領については、ボブ・ウッドワード氏が「湾岸戦争時とは人が変わったようだ」と評しています。こうしたことが起きるのが戦争という行為の不思議さです。

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