イランとシリアの協力でイラクを平和に?

2006.10.19

 BBCによると、イラクのジャラル・タラバニ大統領が「イランとシリアがイラクを安定させる活動に加われば、暴力は数ヶ月以内に収まるだろう。それはテロリズムの終焉の始まりだ」と発言しました。

 この驚くべきアイデアは、アメリカでジェームズ・ベイカーが率いる政府委員会の中で検討されているらしく、タラバニ大統領はそれに同調しているのです。べイカー氏はブッシュ大統領の父が大統領だった時の国務長官で、切れ者として知られていました。本来、落選していたブッシュ大統領を票の数え直して当選させた男としても知られます。

 べイカー氏は数ヶ月以内にイラク政策に関する報告をする予定で、段階的な兵力の撤退とイラン・シリアの協力を検討しています。選択肢はすでに述べられている意見の中にある、と彼は言います。べイカー氏は前者を「cut and run」と、後者を「stay the course」と表現します。「cut and run」は、港に係留中の船が敵の来襲に気がついて、錨索を切って出航することを言います。「stay the course」は最後まで踏みとどまるという意味です。

 つまり、べイカー氏が結論を出す時、イラク政策は大幅な変更を見ることになるということです。ブッシュ大統領にとって、べイカー氏は「パパの懐刀」です。そういう人物がブッシュ政権の危機を救うためにやってきたわけですから、結論は概ね見えていると言ってよいでしょう。「stay the course」しか、ブッシュ政権を恥から救う手はありません。方法を変えることで部族抗争を抑え、それから米軍を撤退させるのです。

 しかし、こんな計画にシリアとイランが乗ってくるのでしょうか? どんな条件を出せば、この二ヶ国が賛成するのかを考えると、アメリカがパキスタンを同盟に取り込んだ手法が思い出されます。これまで、敵視していたのを止め、シリアとイランを対テロ戦争の同盟とみなすのです。もちうろん、そんなことは事実とはほど遠いことです。しかし、たっぷりと援助と利点を与えることで見せかけの同盟を作り、見た目にイラクの部族抗争を抑えることはできます。それがいつまで続くかは分かりませんが、とにかく軍をイラクから引き揚げることはできるでしょう。問題は、これで戦いが終わるわけではなく、別の形で続くということです。しかし、アメリカ国内はイラクから撤退できることで大喜びし、その危険性は軽視するのです。

 余談ながら、今月のイラクでの米兵の死者はすでに70人を超え、1ヶ月の死者数が100人を超える可能性が出てきました。

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