北朝鮮の核実験:日本の政界での議論について

2006.10.13

 北朝鮮の制裁決議の詰めが難航していたようですが、それについて書いている内に、臨検を含んだ第41条の行使ということで、中ロが妥協したという情報が入ってきました。安保理事国5ヶ国が合意したことで、14日の理事会での採決が可能になったことになります。これで制裁手続きは一歩前進です。早く制裁決議の全文が見たいと思っています。

 現在、参議院が開会中で、当然、この問題に関する質疑応答が行われています。しかし、その内容は実情とあまりにもかけ離れていて、実感が湧きません。

 12日、安倍総理は愛知治郎氏の「緊急避難的にミサイルを破壊する選択肢も検討しなければならない」という質問に対して、「常にわが国を守るためには、どうすればいいかを検討、研究していくことは当然だ」と答えました。敵地攻撃論が政府の方針なのは当然のように語られるようになりました。しかし、7〜8月のレバノン戦争のように、移動するミサイル発射機を破壊するのが難しいことは明らかです。イスラエル軍はそのために国連軍や民間人が避難していたビルを誤爆し、国際社会から非難を浴びました。また、ミサイル攻撃を防ぐという目的は最後まで達成できませんでした。攻撃能力を持った無人偵察機でもおそらく効果的な対応は無理です。まったく別の新しい兵器を開発する以外、方法はないと考えなければなりません。こうした質疑応答は単に国民のガス抜きのためにしかならず、軍事的には意味がないのです。

 北朝鮮のミサイルについても、安倍総理が「(命中)精度をあげている」と回答したことにより、それが常識と化してしまいました。しかし、生のデータを見られない者にとっては、報道された情報からすると、命中精度は以前よりも悪くなっています。この矛盾を解くのは政府の仕事ですが、自分の制作に都合がよい方向でしか説明しようとしていないのです。

 なぜか問題の根幹を国会議員は誰も訴えようとしません。ミサイル防衛が完成するにはまだ数年かかり、完成後もどれだけの迎撃力を持てるのかは不明です。国民保護計画は、核攻撃を受けたら屋内や地下に避難し、政府や自治体の救援を待つという非現実的で実行不可能な内容です。非現実的な状況の想定、非現実的な対処は日本の防衛議論において伝統的に見られるものです。目の前に危機があるかも知れないという現在でも、その愚行は続いています。かなりの人が先鋭的な議論を防衛議論と勘違いしていて、あまりにもずれた議論に向かうものだから本当の防衛議論ができないのです。

 それから、日本の法律では周辺事態が起こらないと臨検を行えません。そのため、北朝鮮の核実験を強引に周辺事態と認定しようという意見が与党内に出ています。これは無理がありすぎて実現しないと思いますが、法改正なしに臨検をやれるので浮上したのでしょう。これは周辺事態法の内容にも原因があります。周辺事態法には、第3条に言葉の定義が定められて今明日が、ここに周辺事態は書かれておらず、第1条に説明されているだけなのです。以下に条文を示します。

(目的)
第一条
 この法律は、そのまま放置すれば我が国に対する直接の武力攻撃に至るおそれのある事態等我が国周辺の地域における我が国の平和及び安全に重要な影響を与える事態(以下「周辺事態」という。)に対応して我が国が実施する措置、その実施の手続その他の必要な事項を定め、日本国とアメリカ合衆国との間の相互協力及び安全保障条約(以下「日米安保条約」という。)の効果的な運用に寄与し、我が国の平和及び安全の確保に資することを目的とする。

 地下核実験は「そのまま放置すれば我が国に対する直接の武力攻撃に至るおそれのある事態等我が国周辺の地域における我が国の平和及び安全に重要な影響を与える事態」にあたるとは言えません。たとえば、北朝鮮が上陸作戦の演習を行ったとします。これを見て、将来日本に上陸するための訓練だとみなして、周辺事態とすることはできません。北朝鮮が攻撃能力を持った船舶を日本に向けて出航させたが、日本領海に入る手前で弾薬が発火するなどの事故が起きて、沈没してしまったとします。この場合、明らかに船が日本に向かっていたことが説明できるなら、周辺事態を宣言できるでしょう。この問題は長期化することも予想され、日本が臨検を行うなら立法化するのが正道です。ただ、北朝鮮から出る船は韓国の近くも通ります。それらは必然的に勧告が臨検を行うことになります。中国が臨検に賛成した以上、臨検にも参加するでしょう。すると、日本の出番はあまりないのではないかと考えられますし、韓米中の3ヶ国もその方が臨検をやりやすいと考えるかも知れません。いずれにしても、臨検が実施されれば担当海域を決めて、各国がそれぞれに責任を持つという形になります。それがどのような形になるのかも、もう考えておくべき段階にあります。(付記 周辺事態法で認められているのは強制力のない船舶検査で、強制力のある臨検とは別です。私自身の混乱により、誤ったことを書いたので訂正し、あえてそのまま残します)

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