イラク侵攻がもたらす将来の危険

2006.9.5

 ブッシュ大統領はラジオ演説で、「イラクは内戦状態ではない。武装勢力には一部のイラク人が関わっているだけだ」とラジオ演説で述べました。しかし、イラクの新聞はそうは思っていないようです。

 Iraq Sunによれば、現在バグダッド市内には、50,000人のイラク兵と、7,500人の米軍兵士がいます。8月の死者数は46%減少したものの、先週2件の爆弾事件で少なくとも90人が死亡しています。イギリスのタイムス紙は、米軍とイラク軍が大勢で警備しない場所では武装勢力が活動していると報じました。治安が回復したとは言い難いと記事は書いています。

 こうした問題は過去の戦争で繰り返し起こったことで、それをなぜブッシュ政権が考慮しなかったのか未だに理解できません。イラクでのアルカイダのナンバー2、ハミード・サイーディが逮捕されても、すぐに代わりが任命されるので、大勢にはほとんど影響ありません。

 6万人近い兵士がいても、都市一つ警備できないことに驚く人もいるかも知れません。野戦では6万人の地上軍は強力な戦力です。野戦では部隊は散開して行動します。ところが、都市の警備では、車両や徒歩によるパトロールが中心です。パトロールはその場に留まることができず、IED攻撃を防止することはできません。軍事行動の種類によって、部隊が発揮できる力は変化するのです。こうした戦場の力学戦例を数多く眺めないと判断する力はつきません。そこに、根拠のない楽観論や共産主義や国粋主義、行き過ぎた平和主義などのイデオロギーを持ち込むと、大抵の場合、判断を誤ります。たとえ嫌でも、軍事的力学を客観的に考察することが不可欠なのです。

 イラクで意味のない警備活動を続ける間も、イランや北朝鮮などが核武装する危険があります。第3次世界大戦は「中東大戦」と呼ぶべきものになるかも知れません。その大戦が終わっても、世界から戦争がなくなるわけではありません。我々は危険な世界を綱渡りをしながら、少しでもよい選択肢を選び続けなければいけないのです。しかし、最近日本のマスコミやネット上に見られる戦略論は、評価に値しない低俗なものが主流で、多くの人がそれに満足しているように見えます。

 そして、なお不安なのは、自民党の総裁選挙ですでに当確を決めたも同然の安倍晋三氏が、これまでの発言を見る限り、戦略的なセンスを持ち合わせていないことが明らかだということです。安倍氏の戦略論は、最近はやりの自由史観に基づいているようにしか思えず、ごく単純なモラル論の延長にあるようにしか思えません。私は安倍政権の外交には期待できないと思っています。安倍氏の過去の発言を探して、問題点を列挙することには意義があるかも知れません。この検証は、近いうちにやってみたいと思っています。

Copyright 2006 Akishige Tanaka all rights reserved.